第9章 柱たちと年末年始✔
「い、一本よ蛍ちゃん! 蛍ちゃんの勝ちだから…!」
慌てて両手を振る蜜璃の姿は、その目に入っていない。
勝たないと。
倒さないと。
道は拓かれない。
その思いに突き動かされるように、朦朧とする頭で蛍は白菫色を追った。
「ハッ、上等だァ。死合いたいなら相手になるぜ」
口内に滲んだ血を吐き捨てて、体を起こした実弥が笑う。
不意を突かれて飛ばされたが重症を負った訳ではない。
それよりもこれは絶好の好機だ。
相手の頸を狩る理由になる。
「掛かってこいやァ!」
吼える実弥に、バキリと蛍の指が鳴る。
飛び掛らんと猫のように背を丸め、体勢を低くする。
その蛍の頭上で一つの影が舞った。
「やっぱり鬼は鬼だ」
抜刀した日輪刀を構え飛躍していたのは時透無一郎だった。
その目は蛍の頸だけを捉えている。
ガキンッ!
鋭い鉄が摩擦を起こす。
振り下ろした無一郎の刃は、蛍の頸には届かなかった。
止めたのは、腰から抜いた日輪刀の鞘で受け止めている杏寿郎だ。
「冨岡!!」
その呼び掛けに、同時に駆け出していた義勇の足が蛍の覚束無い足を払う。
「グ…!?」
バランスを崩す蛍の視界に、ばさりと広がる何か。
それは視界を多い忽ちに暗闇へと変えた。
「目を閉じろ。耳だけ使え」
「ガゥウ…!」
「彩千代」
「グルァ…!」
「彩千代!」
蛍の体を覆っていたのは義勇の半柄羽織だった。
包んで上から被さるように押さえ込み、声を張る。
普段叫ぶことなど滅多に無い義勇の声は、微かにだが蛍の耳に届いた。
(声。が、する)
誰の声かはわからない。
しかし視界を閉した為により一層感じられたのは、強烈な実弥の稀血の匂いだけではなかった。
被さる布から伝わる匂い。
それは何処かで嗅いだことがある。