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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「ううむ…」


 迷いのない冷ややかな眼。
 それを前に杏寿郎は口を閉ざした。
 同じ柱という立場でいるからこそ、無一郎の意志も理解できる。
 寧ろ柱として肯定すべき思いだ。
 しかしその思いによって蛍の存在が潰されてしまうのは、頂けない。

 平行線である。
 杏寿郎と無一郎の思いは重なり合うことはない。
 例えそれが同じ人間同士であっても。


「俺達があいつの存在を認めるのも否定するのも、全て勝手だ」


 ぽつりと、皆の沈黙の中に落ちてくる。
 誰に語りかけるでもない、淡々と告げてくる声。
 その目は鬼の姿を見せる蛍だけを見据えていた。


「だが自分の道を作るのはあいつ自身。今此処でその選択ができるのは彩千代蛍だけだ」

「うむ…そうだな。冨岡の言う通りだ!」


 落ちてきた声は義勇のものだった。
 満足そうに口角を上げると、威勢よく杏寿郎も頷く。


「共に蛍少女を応援しようではないか! 冨岡!」

「…応援するとは言ってない」

「そうか!? では共に蛍少女の勇姿を見守ろう! 冨岡!!」

「俺は別に…」

「一度は稀血に耐えたんだ、蛍少女なら今度も耐え得ることがきっとできる!!」


 がしりと義勇の肩を掴んで声を張る。
 杏寿郎の勢いに呑まれる義勇をご愁傷様と見つつ、天元は傍観者として笑った。


(俺ら全員が一致団結するなんざ、お館様の声でもない限り無理だろうな)


 皆それぞれの生き様があり、背負うものがあり、この地に立っている。
 その意志を一つにまとめることなど容易ではない。
 それでもその柱名のように正反対である水柱と炎柱を繋げているのは、一匹の鬼だ。


(鬼が柱と柱を繋げるとはねぇ…面白い奴を冨岡も見つけたもんだ)


 天元が義勇の立場であったなら、蛍を見つけた時点でその頸を跳ねていただろう。
 もしそうなっていたならば、今この場で見ている彼らの姿はないはずだ。
 そう考えると、不思議と蛍の存在を認めている自分がいた。

 一度、忍としての地位も立場も全て捨てて里抜けした身であるからこそ。
 人と人との間を結び付けるものは、簡単なようで呆気なく切れる糸のようなものでもあることを天元は知っていた。

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