第9章 柱たちと年末年始✔
「それは屁理屈ですよ、煉獄さん。さっき人は人、鬼は鬼だって認めたじゃないですか」
「そうだな…しかし、それでも彼女の意志が俺の心を動かしたのは確かだ。彩千代蛍だったからこそ、彼女の本気に応えたいと思った。その心に人や鬼という枠組みはない」
目に見えないものだからこそ説明がつかない。
それでも確かにそこに在るもの。
あやふやで形のない、しかし確固たる杏寿郎の思いに無一郎は眉を潜めた。
「よくわからないな…」
例え心に訴えるものがあったとしても、やはり人は人、鬼は鬼。
相入れぬものなのだと。
「…多少は、わかる」
「悲鳴嶼さんまで?」
そこに静かに相槌を入れたのは、両手を合わせ合掌する行冥だった。
「鬼への理解ではない。…人の中にも、鬼のような心を持つ者がいることだ」
視界の開かない行冥の眼は、だからこそ見えない人の心の内を見透かす。
「鬼と等しく我欲が強く、すぐ嘘をつき、平気で残酷なことをする。そういう者達も人間の中にはいる」
「…そういう人間なら俺も知ってますよ。でもだからって人を喰らいはしないでしょう?」
人と鬼との決定的な違い。
それは目の前の光景にこそある。
「人の血を飲んだだけで、あんな獣みたいな姿を見せますか?」
血の交じる瞳を持ち、獣よりも鋭い牙を剥き、常人ならぬ力で他者を蹂躙する。
「あれは鬼であり、俺達が滅する存在。それ以上の意味も存在もない」
それが全てなのだ。