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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「ふ、ぅぐ…っ?」

「今度は冨岡の助けはねェぞ。歯ァ食い縛れ」

「っ!」


 実弥の言葉に何をしようとしているのか瞬時に悟る。
 慌てて蛍の手が実弥の腕を掴もうとするが、その前に口内の指は目的へと辿り着いていた。


「直接飲ませてやるよ。酒よりもっと美味いもんをなァ」


 ぐっと実弥の指が、蛍の鋭い牙に押し付けられる。
 退こうにも退けず抗おうにも抗えない。
 必死に口を大きく開けることで傷付けることを阻止しようとするが、口内を侵されていては無駄な抵抗でしかなかった。

 切れ味の良い牙の先端が、易々と実弥の皮膚を裂く。
 そこから滲み出る血液が口内を浸せば、瞬く間に強烈な匂いと味が蛍を襲った。


「ぐ、う…ぅッ」

「美味いか? 俺の血はよォ」


「煉獄」

「ああ。わかっている」


 蛍の目の色が変わる。
 より一層血のように紅く染まる瞳に、わなわなと震える牙を剥いた口元。
 天元の呼び掛けにその姿を見据えたまま、杏寿郎は微動だにせず頷いた。


「不死川はあれくらいで殺られる男ではない。この場で死者は出ないだろう」

「問題は不死川さんより彼女ではないですか?」

「あのままじゃ凶暴化しちゃうんじゃないのかな…」

「蛍少女が不死川の手に負えなくなれば、被害が拡大する前に押さえる。此処には鬼殺隊屈指の柱達がいる。問題は無い」


 「だから」と続けて。蛍から逸れた杏寿郎の視線が、無言で立つ義勇へと向く。


「冨岡も動くな。これは不死川と蛍少女との勝負だ。誰も水を差してはならない」

「……わかっている」


 緊迫した空気へと塗り変わる中で、義勇もまた微動だにしていなかった。
 杏寿郎の言う通り、屈指の手練が揃ったこの場で血は見ても死を見ることはないだろう。
 何も問題はない。

 あるとすれば、


「ぅ…ぅ、」


 それは鬼である彼女の内側にだけだ。

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