第9章 柱たちと年末年始✔
避けようとしない実弥に、伸びた蛍の手が簡単にその手首を掴む。
この勝負は、最早手押し相撲と言うより自身の円の中で行う組手のようなものだ。
「やる気じゃねェか」
「全然。早く終わらせたいだけ。ってことで、」
ならば、と。手首を掴んだ蛍の腕が外側へと捻る。
そのまま振り被る姿は、一戦目の実弥と重なった。
「そぉらァ!!」
「お。あれ最初に不死川が時透にやったやつじゃね」
「む! 綺麗に舞ったな!」
背負い投げられるように飛ばされた実弥の体が、簡単にふわりと宙に浮く。
一戦目で時透無一郎はこの方法で円の外へと飛ばされた。
円から離れた足は行き場がなく、負けるのも秒の問題。
しかし実弥は違った。
「甘ェんだよ!」
「ッ!?」
投げ飛ばされる前にと、掴んだ蛍の手を逆に掴み返すと器用に宙で体を捻る。
そのまま遠心力を得て、蛍の腹へとズドンと重い膝蹴りを打ち込んだ。
「ッぐぅ…!」
「いくら鬼でも少し鍛えたくらいで俺に勝てると思うなよォ」
地に足が着く前に、蛍の背を蹴り再びすたんと器用に円の中に着地する。
膝を折る蛍を見下ろして、冷たい目で一蹴。
その姿は柱としての実力を持った者の姿だった。
「公の場でテメェを滅多打ちにするのも悪くねェ…が、煉獄が課した面倒な法則がある」
急所を蹴られ膝を付いたままの蛍を前に、ちらりと実弥の目が周りを伺う。
一歩でも円の外に出てしまえば即終了。
となれば覚束無い足で蛍に相手をされても困る。
早々死合いを終わらせる気はないのだ。
それよりも確実に、蛍の醜態を皆に晒せる方法を実弥は知っていた。
「オラ顔上げろォ」
「ッ…」
わしりと蛍の頭を髪ごと鷲掴む。
無理矢理に持ち上げ仰け反る顔に己の顔を寄せると、実弥は口角をつり上げ笑った。
「なら別の方法でテメェの正体を暴いてやる」
「何、を…ぅっ」
問い掛けようと開いた蛍の口に無理矢理捩じ込まれたのは、実弥の指だった。
思わず退こうとする蛍の頭を掴んで阻止したまま、乱暴に奥へと捩じ込み口内を侵す。