第9章 柱たちと年末年始✔
天元に比べると幾分劣るが、大の大人としては十分な背丈を持つ。
更にその体から発せられる威圧は、かの忍者より遥かに濃い。
「俺が勝ったらテメェの死刑を求めるぜ。死にたくなかったらそれこそ死ぬ気でやれよ」
(…またそういうこと言う…)
口を開けば死刑だ斬首だ、暴言ばかりを吐く男を前にして蛍は眉を潜めた。
すると小さかった幼女の姿が、するりと脱皮するかのように成人へと変わっていく。
膨張するかのような動作ではなく、古いものを脱ぎ捨てていくような感覚で目線の位置を高くする。
その様を怪訝に実弥は見やった。
「なんだァ? 餓鬼の姿で戦るんじゃねェのか」
「頭とか、潰されそうなんで」
ひ弱な姿でいれば、目の前の男は遠慮なく潰してくるだろう。
大勢の柱の前で致命傷を負わされるなど願い下げだ。
蛍のその姿は実弥も望んでいたものなのか、すぐに挑発的な笑みを浮かべた。
「そうこなけりゃなァ。全力でこいよ、完膚無きまでに叩きのめしてやる」
「よく死合いたいって口癖みたいに言うけど…じゃあこれで決着がついたら、もう喧嘩売って来ないで下さい」
「はっ、そん時はテメェはもうこの世にいねぇよ」
(だからまたそういうこと言う…)
「テメェのそういうところが気に喰わねぇんだよ」
「?」
「腹の底で悪態ついてやがる癖に、腹に収めたままで一向に出そうとしねェ。飯の貴重さを偉そうに説いてきた時の方がまだマシだったな」
「え、ええっと…は、始めてもいいですか?」
おどおどと問い掛ける蜜璃に、片足を下げた実弥が戦闘態勢を取る。
「いつもすぐに逃げやがって。今度は逃さねェ」
「…なんで逃げるのか、自分の胸に手を当てて考えてみたら」
「ァあ?」
同じく片足を下げ拳を握ると、蛍も静かに息を吸った。
「なんでお腹に収めたままで出そうとしないのか、結果だけ見て理由を考えないなら一生反りは合わないよ」
上がる蜜璃の腕に、蛍と実弥の目が鋭く変わる。
「誰が鬼と仲良くなんざするか」
「だから仲良くとかじゃなくて…」
「え。え。えっと…始め!!」
「少しは相手を見ろって言ってるの!」
振り下ろされた手刀に、先に動いたのは意外にも蛍の方だった。