第9章 柱たちと年末年始✔
「冨岡がお館様に命を受けて彼女についているのなら、俺が師としてその命を代わりに受けるのはどうだろうか。そうすれば時間を縛られることもなくなるだろう?」
「…それは…」
「冨岡が自ら好んで務めているなら別だが」
「…好んでなんか、いない」
「ならば互いに利益のある話だな」
「……」
朗らかに笑う杏寿郎には悪意などない。
確かに一理あることでもある。
なのに何故か腑に落ちない。
本当にそうすべきかと自問自答すれば、頷くことはできなかった。
「あのぉ…煉獄さんの勝ち、ですよ?」
「ああ! 審判を務めてくれて礼を言う!」
おずおずと再度勝敗を告げる蜜璃に、その場から杏寿郎が退く。
しかし義勇は無言を貫いたまま微動だにしない。
「オイ。もう終わっただろォ、其処退け」
そんな義勇を一蹴したのは、袖を捲り闘志を燃やす実弥だった。
早く死合いたくて堪らないというかのように、円の中に立つ。
「おい鬼。テメェの番だ早く来い」
「お呼びだぞ。シバかれに行って来い」
「…いきたくないなぁ…」
「なら俺に負けりゃあ良かったんだ。煉獄も言ってただろ。これは勝った奴の務めだぜ」
実弥の待つ土俵へ向かうことを渋る蛍に、天元の手がその小さな背を押す。
「俺様に勝ったんだ。負けたら承知しねぇからな」
「…じゃあぜんりょくでおうえんしてよ」
「おー。勝ったら派手に祝ってやる」
「二人共、円の中へどーぞ!」
天元に見送られ、蜜璃に言われるがまま、土俵へと向かう。
途中ですれ違った義勇の目が一瞬蛍を捉えたが、すぐさま逸れていった。
(? 負けたこと、結構悔しかったのかな…義勇さん)
杏寿郎と勝負をするまでは、やる気の見えない無表情だった。
しかし今は難しそうな顔をしていたように見えたのは気の所為か。
「来いつってんだろ。潰されてェのか」
なんとなしにその背を目で追っていた蛍に、実弥の声が再度かかる。
渋々と再び円の中に向かうと、傷だらけの男と向き合った。