第9章 柱たちと年末年始✔
「どうした冨岡! 逃げてばかりでは俺は倒せないぞ!」
「……」
その言葉に応えたのか、打ち込まれた拳を義勇の掌が受け止める。
掴み合う手と手に、ようやく互いの動きが止まる。
ギリギリと押し合う力は、五分五分のようにも見えた。
「冨岡も力を上げたな…!」
「…っ」
以前の腕相撲では杏寿郎には及ばなかった。
しかし今度はそう簡単に退かない義勇に、杏寿郎の目も爛々と輝く。
「冨岡は優勝した暁には何を褒美として欲しい!?」
「…?」
突然として問い掛けてくる杏寿郎に、義勇の顔が怪訝に変わる。
何故今?という心境をありありと語っていた。
「あの状態でよく世間話できるな、煉獄の奴」
「きょうじゅろうらしいとおもうけど」
「へえ? 杏寿郎らしい、ねぇ」
「…なに、そのえみ」
「いーや? 仲がよろしいようで」
にまにまと蛍を見て笑う天元は始終面白そうな顔。
「そういや煉獄の奴、いつの間にかお前のこと蛍呼びしてんな。俺にはあんなに突っ込んできた癖に」
「つっこむってなにを」
「いんや。別に」
「さっきからそればっかり。そのえがおやめてなんかはらたつ」
「俺様程の美形に向かって腹立つとはなんだ」
相反してむすりと蛍は不満顔を晒す。
そんな外野の二人を余所に、杏寿郎は尚も義勇へと語りかけた。
「希望があるなら言ってみろ!」
「別に希望なんてない」
「そうか! 俺はあるぞ!」
ぎりぎりと互いの間で競り合う力。
変動のないそれに亀裂を生じさせたのは、
「俺が勝てば蛍少女を正式な継子としたい」
「!?」
声を潜めた杏寿郎の言葉だった。
一瞬のことだった。
だがその義勇の一瞬の驚きの隙を、杏寿郎は見逃さなかった。
「隙有り!!」
「ッ!」
弾かれた力が義勇の体を後方に飛ばす。
受け身は取ったものの、円から外れた足に蜜璃の手がパッと上がった。
「一本! 煉獄さんの勝ち!!」
「うむ! いつ如何なる時も冷静であれ! 大事なことだ!」
「待て煉獄。さっき言ったことは…」
「本心だ」
最後の言葉は義勇にしか届いていない。
周りが何事かと目を向ける中、義勇だけが眉を潜め口を結んだ。