第9章 柱たちと年末年始✔
「ではまずは煉獄さんと冨岡さんからねっ」
「先に言っておくが力を抜くことは許さないぞ。それなら俺も力を抜こう。早々切り上げたいのなら全力で掛かってこい」
「…わかった」
溜息混じりだが、それが最善だと義勇も認めていた。
円の中に立ち杏寿郎と向き合うと、空気がぴりりと乾く。
「冨岡とは全力でぶつかりたいと思っていたんだ」
「?」
「何故かな。俺にもわからん」
「(そりゃあ蛍絡みなんじゃねぇの)…お前も罪な女だな」
「? てんげんよりはマシだとおもうけど」
「あんだとコラ」
変わらない表情を浮かべてはいるが、蜜璃と勝負した時とは空気が違う。
そんな杏寿郎の気配を読み取った義勇もまた、静かに相手を見据えた。
「それでは。よぉーい、始めっ!」
間で蜜璃の手刀が落ちる。
それと同時に、杏寿郎の手が義勇へと伸びた。
ふっと息を吐く動作と共に、ゆらりと傾く義勇の体が相手の掌を避ける。
傾く体の流れに任せて、逸した肘がパンッと杏寿郎の掌を横から弾いた。
「むぅ!」
天元と蛍の試合で、立ち位置がずれなければ良いと判断したのだろう。蹴り上げた足が杏寿郎の胴を打つ。
「上手いな、冨岡の奴」
「力は煉獄が勝るが、技能面なら冨岡も引けを取らないということか」
「冨岡さんは普段こういうことに参加しませんからね。意外でした」
普段見せない義勇のその姿に天元や小芭内、しのぶ達柱も関心を示した。
観察する目はただ娯楽を楽しむ者とは違う。
「やはり一筋縄ではいかないな…! 面白い!!」
しかし杏寿郎の腕っ節の強さは、蜜璃の御墨付きである。
強い笑顔を浮かべると、打ち込まれた蹴りにバランスを崩すことなく反撃を開始する。
頭に頸に腹に腱。急所を狙い打ち込まれる拳を、水の如く流れる動作で紙一重に義勇が避けていく。
「…てんげん」
「なんだ?」
「あれ、ておしずもうっていうの…?」
「なに阿呆なこと言ってやがる」
円の中で動かずに繰り広げられる、激しい攻防戦。
それを見つめたまま問う蛍に、同じく見つめたまま天元は当然の如く言い切った。
「一戦目からとっくに崩壊してんだろ、そんな法則」
(やっぱり)