第9章 柱たちと年末年始✔
杏寿郎の急な提案は功を奏したようだった。
「褒美があるとなりゃやる気も変わってくるな」
「じゃあ、じゃあ、一年分の桜餅とか…っ」
(…俺の望みは甘露寺と同じものでいい)
「へェ…褒美か。煉獄の奴、少しは良いこと思い付くじゃねぇかァ」
「俺は一人で好きにできる時間が貰えるならそれでいいけど…」
「……」
「これなら参加できそうか? 胡蝶」
「…まぁ…それなら」
「よし! では決まりだ!」
全員とはならなかったが、大半の柱が興味を持ち参加を示した。
簡単には融通の聞かない柱間で自分の希望が通るのならば、願ったりな褒美となると誰もが考えた結果だった。
「蛍少女も優勝すれば望みを一つ叶えてやろう」
「えっ」
「だから君も頑張れ!」
ぽふりと、杏寿郎の手が小さな頭をひと撫でする。
(勝てば、私の望みが叶う?)
思いも掛けないものだった。
見上げたまま驚き固まる程の。
蛍にとっては、急に頭上に降り注いだ一筋の光のようなものだった。
暗く見えなかった道筋を照らし出してくれるような。
(じゃあ…私が勝てば、お館様との約束が…)
果たせるかもしれない。
(でも褒美って? 蜜璃ちゃんみたいに物じゃないと駄目なのかな。でも時透くんは時間が欲しいって言ってたし…なんでも許されるのかな)
ぐるぐると一人考え込む。
もし実体のないものでも許されるのならば、"自分を認めて欲しい"と望めば柱達は受け入れてくれるのだろうか。
(…望む価値は、あるかもしれない)
例え駄目元でも望まない理由はない。
ならばまずは、この大会で勝たなければ。
やる気など到底なかったはずの蛍の体に自然と力が入る。
あんなにも実態を掴めず不安ばかりが募っていた。
その現実は急に目の前に現れたようだ。
希望のものとして。