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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「だから、ふたりとも、だいすき」


 ふやりと砕ける柔らかな笑み。
 幼い姿も相俟って、普段はあまり見かけない無防備にも見えるその表情に、蜜璃と杏寿郎は目を丸くした。


「まぁ♡」

「……」


 しかし反応は両者共に違った。
 ぽっと頬を染めて嬉しそうに笑う蜜璃とは異なり、押し黙った杏寿郎に笑みはない。
 口を結び表情をぴくりとも変えないまま。
 しかしその頬はじんわりと色付き、酒に酔った者のように染まっていく。


(おーおー、甘露寺以上に口説かれてんな。煉獄の奴)


 ぐびりと酒を煽りながら、面白そうに天元の目が細まる。


「色、ですか…」

「ん? なんだ胡蝶」

「いえ。ただ対象者を色彩に例えて表現するにしては、少し違う感じがして。もしかして彼女は本当にその色が見えているのでは、と思ったんです」

「色ねぇ…言われてみりゃ確かに」


 撫子色や猩々緋色など、見えなければ簡単には思い付かない色だ。
 口元に手を当てて観察するようにじっと蛍を見据えるしのぶは、蟲柱の目をしていた。


「もしかして…血鬼術…?」


 ぽそりと呟いたしのぶの言葉に、天元も目を見張る。

 鬼血術(けっきじゅつ)とは、鬼だけが用いる特殊な術のこと。
 その特徴も見た目や効果も全てバラバラで、鬼の個につき一つの能力が備えられていると言っても過言ではない。
 しかし血鬼術はそれなりに強い鬼が持ち合わせている術である。
 人を満足に喰らってもいない蛍が果たして持てるものなのか。
 そして色を見分ける能力とは。

 一瞬にして様々な疑問が浮かぶ中、その空気を断ち切るような大きな音が、ドン!と狭い檻に響いた。


「鬼ともあろう犬畜生が絆(ほだ)されてんじゃねぇぞ…」


 低い声で腹の底から響くように語りかけるは不死川実弥。
 机に叩き付けたグラスは、その衝撃で罅が入っている始末だ。


「いい加減俺と勝負しやがれ…!」


 俯いていた顔を上げれば、血走った目が蛍を捉える。
 それと同様に血色の良い頬も晒され、おおと天元は声を上げた。

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