第9章 柱たちと年末年始✔
「甘露寺」
「な、なぁに? 煉獄さん」
「悪いが、暫く蛍少女を甘えさせてあげてくれないか」
「え?」
そっと隣に移った杏寿郎が、声を潜めて蜜璃に呼び掛ける。
「蛍少女はこの地で一人、誰にも甘えられることなく生きている。酒の勢いがあったとしても、その束の間の憩いを与えてやりたいんだ」
「煉獄さん…」
蛍へと向けられる優しさの中に、尚想いを秘めたような瞳。
元師のそんな瞳など見たことがなかった蜜璃は、きゅんと胸を踊らせた。
「(なんて素敵な思い…!)ええ勿論! 私でよければ沢山蛍ちゃんを甘やかしてあげるわっ」
「そうか! ありがたい!」
握り拳を作り、互いに声を張り合う。
「さぁさ、たっくさん甘えていいからね♡ 蛍ちゃん♡」
「ぅぷっ?」
ぽよんと顔に押し付けられる大きな胸。
その間から見上げる蛍の目に、満面の笑みで頭を撫でてくる蜜璃が映る。
隣に視線を移せば、爛々と笑顔を浮かべた杏寿郎と目が合った。
「甘露寺なら同じ女子同士、気兼ねなく甘えられるだろうっ」
そう声を張る彼の姿が、両手を広げて甘えろと言ってきた昨日の姿と重なる。
「…ぷはっ」
埋まった大きな胸の谷間から顔を離すと、蛍は小さな頭をふるふると横に振った。
「ちがうよ、きょうじゅろう」
「む?」
「いせいとかどうせいとか、そういうのはかんけいないよ。みつりちゃんはみつりちゃんで、きょうじゅろうはきょうじゅろう」
幼い両目が二人を交互に映す。
その蕩けた瞳には、素面の時と変わらず二人の色が映し出されていた。
「みつりちゃんはね、なでしこいろなの」
「え?」
「かわいくて、やさしいいろ。そばにいると、あったかい」
「撫子、色?」
「きょうじゅろうは、しょうじょうひいろ」
「しょうじょうひ?」
「たいようみたいにあかるくて、あんしんするいろ」
酔ってはいるが普段の意識は残っている。
幼い顔で、ほんのりと蛍が笑う。
「ふたりには、ふたりにしかないいろがあるから。だからみつりちゃんのむねもあったかいし、きょうじゅろうのうでのなかもほっとするの」