第9章 柱たちと年末年始✔
「ううむ…すっかり柱会が飲み会に変わってしまったな…」
「元から毎年こんなものだっただろう」
「宇髄さんがいるといつもこんな感じですもんね」
柱会常連組には思い当たる光景だ。
納得する小芭内達の中で、蜜璃だけが未だ腕の中の小さな少女を伺っていた。
「蛍ちゃん…?」
「…?」
呼び掛ければ、ちびちびとワインを飲んでいた蛍の目が向く。
声は届いているが、蜜璃を映す幼い両目はとろんと蕩け、どこか覚束無い。
「大丈夫? その…気持ち悪くなったり、してない?」
「だいじょうぶ」
気遣う蜜璃の心配そうな目線とは裏腹に、頸を横に振る蛍の顔色は悪くない。
寧ろほんのりと赤く色付き、血色良くさえ見える。
ただ拙い声は尚幼く、舌足らずにも聞こえた。
「なんか、ふわふわする」
「そ、そう。お酒の所為よね、やっぱりそれ…」
「でも、ふわふわして、きもちいい」
「そうなの?」
こくりと頷いた蛍の小さな頭が、ぽふんと傾く。
柔らかな蜜璃の胸に受け止められ、気持ちよさそうに両目を瞑った。
「みつりちゃん、いいにおいする…きもちいい」
「っ!」
ぼふんっと音を立てんとする勢いで、蜜璃の顔が真っ赤に染まる。
「そ、そ、そんな、良い匂いだなんて…ッ」
「ふわふわする。やさしい、におい」
「ッッ!(何故かしら!? ドキドキするわッ!)」
「おーおー…蛍がいっちょ前に甘露寺を口説いてやがる」
「彩千代蛍め…後で沈めてやる…」
「まぁまぁ落ち着いて下さい、伊黒さん。あれ酔ってるだけですから」
「酔うと蛍少女は甘えたがりになるのだな…」
すりすりと自ら擦り寄る蛍に、直撃を受けた蜜璃は真っ赤なまま微動だにできていない。
まじまじと天元達の目が向く中、ふと思い出したように杏寿郎は一人頷いた。
昨夜、この檻の中で蛍が言っていたことを思い出したからだ。
自分は姉に甘えたがりな妹であったと。