第9章 柱たちと年末年始✔
人間時の仕事の一貫で酒を嗜んだことはあるが、こんな禍々しい色の酒は蛍も初めてだった。
グラスの中を覗き込めば、葡萄の酸味とアルコールの匂いが鼻を突く。
(これを血に…置き換える…)
天元に言われたことを頭の中で復習する。
初めて見るドス黒く赤い液体は、人のそれと確かに似通っている。
じっと液体を見続ける蛍の縦に割れた瞳孔が、更にきりきりと細くなった。
幼女が持つにしては大き過ぎる犬歯が、唇の隙間から覗く。
蛍の様子に周りの柱達の視線が向く中、桜餅の一件を知っている蜜璃達だけが反応を違えた。
「む、無理して飲まなくてもいいのよっ?」
「そうだぞ蛍少女」
「宇髄の戯言につき合う必要はない」
「何が戯言だよ。俺だって飲むっつーの」
小芭内までもが止める中、自分のグラスにもワインを注ぎ、迷い無く天元が口にする。
「っ美味ぇな、やっぱ」
そこに蛍への怪しい意図は見られない。
ただ純粋に好きで持参したものなのだろう。
気持ちのいいまでの飲みっぷりに、蛍もまた真似るようにグラスにそっと口を付けた。
「彩千代」
今まで沈黙していた義勇の急な呼び掛けに、ぴくりとグラスを持つ手が反応する。
しかし口元へと傾けたグラスの中身は、重力に従い小さな蛍の口に吸い込まれるようにして流れ落ちていった。
ほんの少しだけ。
口に含む程度の酒を、こくりと飲み込む。
味わう暇もなかったが、喉を通れば酒独特のアルコール分にカッと喉が熱くなった。
「…けほっ」
「ひゃあっ! だだだ大丈夫っ!?」
「む! 水ならここにあるぞ!!」
「吐くなら檻の外でしろ」
小さな咳き込みにさえ敏感に反応する蜜璃達に、しかしそれ以上の嗚咽は見られず。
強い渋みのあるワインは、慣れない蛍にとっては甘い桜餅とは違い馳走にはならなかった。
それが幸いしたのだろうか。
「…のめた…」
ぽけ、とワインを見つめて一言。
自分でも驚いたように呟く蛍に、天元だけが満足そうに笑った。
「お前もワインがいける口か、気に入った!」