第9章 柱たちと年末年始✔
「お前、酒を飲んだことは?」
「すこしなら…」
「経験有りなら十分だ。こいつは飲んだことないだろうがな」
「せいようって、がいこくのおさけってこと?」
「ああ。甘露寺、新しい器くれ」
「あ、はいっ」
新たなグラスに注がれる、ワインという名の飲み物。
その赤とも黒とも言い難い深い水の底のような色に、蛍と蜜璃は顔を近付けてまじまじと見やった。
「わあ…こんな色のお酒初めて見たわ…!」
「なんか…」
「…ね」
「うん」
互いに目を合わせて曖昧にも頷く。
二人の考えは一致していた。
「血みたいだろ?」
それを的確に当てた天元の言葉に、目を止めたのは二人だけではない。
「むっそれは血液なのかっ?」
「え? 宇髄さん血なんて持ってきたんですか?」
「はァ? 血だァ?」
「宇髄…いくら鬼子がいるからと、そんなものを用意するとは…」
「甘露寺にそんなものを近付けるな」
「え? 自分の血を抜いたの? うわあ悪趣味」
「ちっげーよ! 酒だっつってんだろ! 言いたい放題言いやがるなお前ら!!」
ドン引きした目で遠巻きに見る、蜜璃と義勇以外の柱達。
その野次に向けて声を張り上げながら、それでも譲らず蛍の目の前にグラスを突き出す。
「これは葡萄酒だ。間違っても血なんかじゃねぇから安心しろ」
「…え。っと…わたし、くだものもうけつけないとおもうんだけど…」
「安心しろ。んな甘ったるい酒じゃねぇよ。こういうのはな、思い込みも大事なんだ」
「おもいこみ?」
「煉獄から教わっただろ。呼吸のそれぞれの型も、実際はそこにないもんを相手に見せる。火は熱いと感じ、水は冷たいと感じる。それと原理は同じだ」
「…いいたいことがよくわからないんだけど」
「ったく、トロい奴だな。つまり血肉しか口にできないお前も、それと似たもんなら口にできるかもしれねぇってことだ」
ぱちりと蛍の目が瞬く。
(つまり、このワインってものを血だと思えと?)
しげしげと天元を見上げていれば、その疑問は伝わったようだ。
「なんでもまずはやってみることだ。いいから一口飲んでみろ」
ずいっと差し出されるグラスを思わず受け取ってしまう。
ちゃぷりとグラスの中の赤黒い液体が小さく跳ねた。