第9章 柱たちと年末年始✔
「とっても美味しいわ、宇髄さん!」
「ったり前だろ。俺様を誰だと思ってる」
「お鍋の味を司る、お鍋の神様ね!」
「なんっか弱ぇなその造語…ちなみに今回はてっちり鍋な。河豚は俺の好物なんで」
「なら河豚神ね!」
「てっちりがみでもいいんじゃないかな」
「てっちり神!」
「りゃくしてちりがみ」
「チリ紙!」
「オイお前ら馬鹿にしてんのか特にそこの鬼娘」
ぷいとそっぽを向く蛍に、ピキリと天元の額に青筋が浮かぶ。
その様をてっちりに手を付けながら見ていた杏寿郎は、威勢よく頷いた。
「うまい! 蛍少女も! うまい! 楽しそうで! うまい! 何よりだ! うまい!」
「食べるか喋るかどっちかにしろよお前は…つーかあれのどこが楽しそうで」
「うまいぞ宇髄!!」
「あーそうかよそりゃよかった」
うまいうまいと大声で連呼し食す杏寿郎の姿はもう見慣れたもの。
それでもそうも素直に褒め立てられれば悪い気はしない。
むず痒く感じる頸を捻りながら見ていた天元だったが、同じに興味を持って杏寿郎を見る蛍の視線に気付いた。
「そんなにおいしいの?」
「ああ! うまい!!」
「どんなあじ?」
「蛍ちゃんもお鍋が気になるの?」
「フグとかたべたことないから…あ。でもまえみたいになるとおもうから、たべないけど」
(前?)
とはなんのことか。
両手を顔の前で振る蛍に、天元は興味深くじっとその様を観察した。
だが観察だけでは真意は見えてこない。
「ま。水だけじゃ味気ねぇよな」
周りが皆馳走を食す中、一人だけ水を飲み続けるなどある意味では拷問だ。
そんな蛍を気遣った結果か、ただ興味が湧いただけか。
ドン、と天元の手が蛍の顔の前に何かを置く。
「ならこれならどうだ」
「…なにこれ?」
目の前に置かれたのは大きな瓶だった。
たぷりと中で揺れているのは液状の飲み物だろう。
しかし暗い瓶の色で、中身の色までははっきりとはわからない。
「ワイン。西洋の酒だ」
「わいん…?」
聞き覚えのない名前に、蛍の小さな頭が横に傾いた。