第9章 柱たちと年末年始✔
「火加減良し! 味良し! 見栄え良し! 出来たぞ俺様特性派手鍋!! お前ら味わって食え!!」
ずらりと机に並ぶ、天元が鍋奉行を務めた鍋飯。
鍋奉行を買って出るだけあって、天元が注ぎ分けた椀の中には艷やかに光る河豚の白身に、ふっくらとした鶏のツミレ。
豆腐も白滝も椎茸も白菜も、どれもが鮮やかに美味しそうな色と匂いを伝えてくる。
「わあっ美味しそう! いただきます!」
早速と手を付けたのは柱一の胃袋持ちである蜜璃だった。
しかしその手がレンゲを口に運ぼうとして不意に止まる。
「はい」
「え?」
「食べる前に蛍ちゃんにもお裾分けっ」
下げた椀を何故か蛍の前に持ってくる。
そんな蜜璃の不可解な行動に、蛍は困惑気味に頸を振った。
「わたしはたべられないから…」
「でも前に桜餅の匂いはわかるって言ったじゃない? だからお鍋の匂いなら蛍ちゃんも楽しめるかなって…迷惑だったかしら…?」
「っそんなことないよ、ありがとう」
蜜璃なりの気遣いだろう。
慌てて頸を横に振ると、蛍は目の前の鍋から息を吸い込んだ。
実際に口に入れると吐き気を催すが、匂いであれば不思議と嫌悪感はない。
寧ろ美味しそうな昆布と河豚の出汁の匂いに、食欲は湧かずとも染み込んだ具材の美味しさは伝わってくるようだった。
「…おいしそうな、おさかなのにおい」
「悲鳴嶼さんが用意してくれた立派な河豚を使ってるから」
「みつりちゃんがたべてくれたら、あじのよさもわかるとおもう」
「そ、そう? じゃあ食べてもいい?」
「うん」
早く味わいたいのか、そわそわと落ち着き無く問い掛けてくる蜜璃に、笑いながら蛍は頷いた。
ぱくりと一口。
レンゲを口に含んだ途端、ふにゃりと蜜璃の顔が軟らむ。
「美味ひい…!」
落ちそうな程膨らんだほっぺを両手で押さえて、蕩(とろ)けた表情で歓喜の声を上げる。
その反応だけで蛍を笑顔にさせるには十分だった。