第9章 柱たちと年末年始✔
(そっか…そうだよね。鬼殺隊ってだけで、皆人間だもんね)
納得するように頷くと、改めて蛍は周りを見渡した。
炬燵兼鍋用コンロにもなっている火鉢のお陰で、煮立つ鍋を取り囲む彼らはこの時ばかりは剣士ではない。
何処にでもある風景を楽しむ、何処にでもいる者達。
一般市民と何も変わらないのだ。
「おい待て時透! 最初に入れんのは肉と魚だろ! 野菜を次々投入すんじゃねぇよ!」
「え?…そうだっけ」
「時透は手伝いをしてくれているだけだ。そう怒るな宇髄」
「にしても順序ってもんがあんでしょーよッ折角の美味い食材もやり手によってクソ不味くなるんだよ! 悲鳴嶼さん、お玉!」
「お玉なら伊黒が持っている」
「伊黒ォ? あいつが鍋仕切るなんて珍し…って何入れてんだお前!?」
「(甘露寺が好きな)甘味だ」
「闇鍋にするつもりかよ!!」
「鍋なんてどうでもいいんだよ俺は。それよりあの鬼と力比べやらせろやァ」
「まぁまぁ落ち着いて下さい不死川さん。お腹が空いては戦はできぬ。ですよ」
「不死川は…おはぎがないから怒っているのか?」
「あ? 今なんつった冨岡」
「好物のおはぎが」
「ァあ!?」
(…いやこれ本当に忘年会?)
わいのわいのと騒ぐ空間が、ぎゃあぎゃあと騒がしくなるのは数分とかからなかった。
くぴりと味気ない水を口に含みながら、蛍は思わず目の前の光景に頸を捻る。
職場で年末に行う飲み会など詳しく知らないが、なんだか違うような気がする。
それよりもまとまりのない、柄の悪いチンピラ集団のように見えなくもない。
「はっはっは! 近年稀に見る明るさの柱会だ! 楽しいな甘露寺!!」
「ええ! とっても!!」
「ぇぇぇ…」
恐らく主催者側であろう、杏寿郎と蜜璃の喜び様にも思わず頸を捻ってしまう。
やはり人間とは言え相手は鬼を狩る剣士達。
常人とは感覚が違うのかもしれない。