第9章 柱たちと年末年始✔
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煉獄杏寿郎の掛け声と共に幕を開けた柱会。
いくら忘年会と思えど一体どんなことを始めるのか。
彼らは鬼を相手にしている手練の剣士達。
内心そわそわと辺りを伺う蛍の前に、てんと置かれたのは一つのグラスだった。
「…これ…?」
「蛍ちゃんにはお水ね。それなら飲めるでしょ?」
「え、うん…それが?」
何か、と見上げれば、トクトクと空のグラスに密璃が水を注いでいく。
そのまま手渡されつい受け取れば、同じにグラスを手にした杏寿郎が「では!」と腰を上げた。
「今回の挨拶は俺の担当だったな! ありがたく一任されよう!!」
「挨拶まで役割があんのかよォ…」
机に頬杖をついたままげんなりと呟く実弥の声は、嬉しそうにはきはきと告げる杏寿郎には届いていない。
「皆、今年は全員よく集まってくれた! 顔ぶれが一切変わることなく皆と共に年を越せることが俺は何より嬉しい! 今年も一年目まぐるしい日々だったが、やはり着目すべきは時透の著しい柱としての成長と、蛍少女の呼吸の学習だっただろう! それによって我々も新たな──」
「いつもながら長いですねぇ、煉獄さんの音頭」
「つーか蛍は柱じゃねぇから関係ねぇだろ。さっさと号令かけろよ」
「鍋が冷える。早くしろ」
「…む」
やんやと合間に言葉を挟むのは、そんな杏寿郎を見慣れているのだろう柱会常連組のしのぶと天元と小芭内。
三人に押されるようにして、仕方なしにと咳払いを一つ。
手にしたグラスを持ち上げると威勢よく杏寿郎は号令をかけた。
「今年も一年、鬼から人の世を守った我ら鬼殺隊を労って! 乾杯!!」
「「「乾杯!」」」
カチン、と重なるグラスとグラス。
「蛍ちゃんも一緒に。乾杯♡」
「か、かんぱい…」
チン、と軽めにグラスを当てられる。
にこにこと笑顔で催促する蜜璃を見上げ、蛍はうんと頷いた。
(やっぱりただの忘年会だ)
どんな大層なことをするかと思いきや、それは何処にでもある風景だった。
酒を酌み交わし、温かい食事を取り囲み、日頃の働きを労う。
何処からどう見ても一年の節目に行う親睦飲み会である。