第37章 遊郭へ
「っそうだこんな場合じゃないんだごめん! 夜になったらすぐに伊之助のいる荻本屋へ行くっそれまで待っててくれ、一人で動くのは危ない!」
これまた真面目な炭治郎のこと。はっと立ち直ると今自分達にはすべきことがあると頭を回した。
柱に言われたからといって、仲間である善逸を行方不明にしたまま任務を放棄する気はない。
「今日で俺のいる店も調べ終わるからっ」
「なんでだよ! オレの所に鬼がいるって言ってんだから今から来いっつーの! 頭悪ぃなテメーはホントに!!」
「イタタ…っひがうよ」
「あーん!?」
そこに即座に反発した伊之助が遠慮なしに炭治郎の頬を抓り上げる。
天元の三人の嫁は全員行方不明として一律同じだが、後から潜入任務として参加した蛍は荻本屋で病気になったとして行方を暗ませた。
更には伊之助自身、荻本屋で人成らざる不気味な物音と気配、そして一瞬だが姿を見たような気がしたのだ。
「夜の間、店の外は宇髄さんが見張っていただろ? イタタタ…っでも善逸は消えたし伊之助の店の鬼も今は姿を隠してる…ってイタタっペムペムするのはやめてくれっ」
それでも炭治郎には炭治郎なりの考えがあった。
それを主張しようにも、伊之助の炭治郎の頭を叩く掌は止まらない。
腫れ上がる程強いものでもないが、無視できる程弱いものでもない。
頭を抱えながらも炭治郎は抗うことなく声を上げ続けた。
「建物の中に通路があるんじゃないかと思うんだよ!」
初めてぴたりと伊之助の平手打ちが止まる。
「…通路?」
「そうだ。しかも店に出入りしていないということは、鬼は中で働いてる者の可能性が高い」
「……」
「鬼が店で働いたり、巧妙に人間のフリをしていればいる程、人を殺すのには慎重になる。バレないように」
「そうか…殺人の後始末には手間が掛かる。血痕は簡単に消せねぇしな」
此処は遊郭、夜の街。
故に鬼に都合が良いことも多いが、都合の悪いことも多くある。
その一つとして、夜は仕事をしなければ不審に思われるはずだ。
だからこそ必ず鬼は夜には姿を現す。
それが遊女の姿か、禿の姿か、別の働き手の姿か。女か男か定かではないにしろ、必ず夜には姿を現さないといけない。
人間のフリをして。