第37章 遊郭へ
遺体が見つかったのは、京極屋のとある花魁の部屋の近く。それがあの蕨姫だった。
二階立ての建物の為、屋根から落ちても打ち所が悪くない限り死にはしない。
それでも三津の遺体は散々たるものだった。
かなりの高所から落ちたのかのように、強く叩きつけられ血の海の中に臓物を弾け散らかしていたのだ。
女郎の遺体ならまだしも、名だたる店の女将だ。
誰か女郎の恨みでも買ったのかと噂され、楼主も後ろ指を刺される日々を送る羽目になった。
三津の死は楼主の心を抉ったが、その心臓を凍り付かせたのは死に様だ。
そしてそんな死に方を強いる原因に、蕨姫の名が頭に浮かぶのに時間などかからなかった。
元々三津は、蕨姫のことを厄介に思っていた。
絶世の美女として人気のある花魁ではあっても、性格が目に余り過ぎる。
蕨姫の暴挙に何人の京極屋の少女が命を落としたことか。
我慢ならないと零していた三津が、蕨姫に最終忠告を告げると言っていたのを楼主も知っていた。
だからこそ合点がいったのだ。
蕨姫の度を超えた暴挙は、とうとう店の女将にまで牙を剥いたのだと。
だからといって突き付けられるだけの証拠はない。
尚且つただでさえ足抜けの多い京極屋を保つ為には、蕨姫の稼ぎが必要不可欠だ。
泣き寝入りしかできず、善子を血が出るほど投げ飛ばした蕨姫にも頭を下げて癇癪を抑えるよう頼み込むことしかできなかった。
最早京極屋では誰が当主なのかもわからない。
そんな異常な空気と関係性に、楼主の心身は擦り切れ削れていった。
白梅とかいう謎の美少女を専用の禿としてからは、多少機嫌の悪さも減った気がしていたというのに。
その禿だけは常に自分の傍に置いて、誰の目にも届かないようにさえしていた。
それでもやはり蕨姫は蕨姫だ、何も変わらない。
(っもうこの店は終わりかもしれねえ)
新しい有力な花魁が育たないのでは、蕨姫の独壇場だ。
それも何年も前から、彼女だけが京極屋で頂点に立ち続けている。
そう、何年も前から。
いつまでも衰えない美しい顔をしたまま。