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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



(でも…)


 空気となりながらも、白く細い腕の中から二人を盗み見る。
 遊郭の世界なら自分も知っている。
 その場にもし自分一人ではなく、姉も共にいたのなら。
 こうして二人で支え合って花街の世界に身を投じていたのなら。
 妓夫太郎や堕姫のような笑顔を浮かべられていただろうか。

 この欲と愛憎塗れの世界でも。


(…なんて)


 結局はたらればの話だ。
 予想は予想でしかなく、姉のいない世界では結果など何もわからない。
 ふいと視線を逸らすと、蛍は静かに自分を叱咤した。

 上弦の鬼の二人の兄妹の絆は確かなものだ。
 そこに羨ましいなどの感情は浮かばない。
 鯉夏と出会った時もそうだったが、ただ二人には"こうであってほしい"と願う思いばかりだ。

 鯉夏に見劣りしない花魁であって欲しい。
 その絆を忘れないでいて欲しい。
 ただ今の二人のままでいてくれたなら。


「…ぇ」


 漠然とそんな思いが胸の内にあることに気づいて、蛍は愕然とした。
 はたと視線を止めて、己の思いに驚く。

 上弦の鬼、それも人を喰らう悪鬼である二人に、そんな感情を抱くなんて。
 鬼殺隊として見るならば斬首すべき相手だ。


「ねぇお兄ちゃん。アタシね、欲しいものがあるの」

「なんだぁ、また着物かぁ?」

「なんでわかったの?」

「お前が欲しいものと言えば大体着物だろぉ。そんなもの客がいくらでも貢ぐだろうがぁ」

「あんな有象無象の寄越す着物なんて興味ないわ。お兄ちゃんがくれた着物が着たいの!」

「あぁ?…そういうもんかぁ?」


 それでもこれは同情や情けではない。
 何気ない二人の会話に雑念など何も感じないからだ。

 寧ろこのまま聞いていたいとさえ思った。
 花街には不釣り合いな程、柔く響くその声を。

















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