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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



「ふふ。なんだか懐かしいわね」

「そうかぁ? こんな暖取りした覚えはねぇけどなぁ」

「当たり前でしょ。他の女となんかしたら許さないわよ」

「「……」」


 そもそもどうやって他の女と暖取りなんてする始末になるのか。
 ちらりと妓夫太郎が目を向けた先にいた蛍と目が合ったが、互いに無言を貫いた。
 堕姫の束縛の強さは互いに理解している。


「なんだか懐かしい感じがしただけ」

「ふぅん…お前が好きなら、寒い日くらい呼べばいい」

「ほんと? 食事の時間以外でも?」

「当たり前だろぉ。なに謙虚がってんだぁ? お前らしくねぇなぁ」

「だって…」


 妓夫太郎の腕の中でもじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめる堕姫には、鬼の面影など到底見えない。
 その目が蛍を捉えていることに気付き、「ああ」と妓夫太郎も続く問いを飲み込んだ。
 健気な妹は、配下である鬼への威厳を保とうとしていたのだ。なんとも可愛らしい見栄じゃないか。


「上弦としての意思をしっかり持ってんだなぁ。偉いなぁ」

「ふふんっ当たり前じゃないっ」


 労うように頭を撫でる兄に、嬉しそうに胸を張る妹。
 二人だけの空気に蛍は小さな肩を竦めると、出番は終わったと背を向けた。


「じゃあ私はこれで…」

「何言ってんの!」

「オぶッ!?」


 二度目の転倒は、瞬時に足に絡み付いた帯の所為だ。
 仲睦まじい兄妹の間に割って入るつもりはない。
 だからこそ空気を読んでその場を去ろうとしたのに、何故か堕姫の帯に物理的に止められてしまった。


「あんたもここにいるのよッ目の届く場所にいなさいッ」

「ぅ…別に逃げるつもりとかはないんですけど…」

「いなさいったらいなさい!」


 理由も曖昧に押し切るところが堕姫らしい。
 だがそれも最近は拍車をかけている感じがしてならないのは気の所為か。

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