第37章 遊郭へ
(だとするとド派手な〝殺(と)り合い〟になるかもな)
遊郭という限られた世界で生きている人間の凡そが、この世界での生き方しか知らない。
逃げ出せないからこそ其処に巣食う鬼の格好の餌食となってしまう。
更には客の大半は成人男性だが、遊郭を住まいとしている大勢は女子供だ。
ただでさえ常人より無防備な人間を守り抜きながら、悪鬼を倒すことはできるのか。
そして妻達や蛍を見つけ出すことはできるのか。
(千坊にゃあ…このことは伝えられねぇな)
不意に天元の脳裏を過ったのは、嘗ての同胞と同じに目立つ毛色を持つ少年。
髪色だけでなく太い眉や火の輪の目まで同胞とそっくりだが、まだあどけなさの残る優しい表情の少年だ。
その顔が曇っているのがありありと伝わる程に、達筆な少年の手紙は蛍への不安を手紙に長く綴っていた。
面識は一度しかないものの、その一度で同胞の弟――千寿郎と幾度となく天元は言葉を交わした。
その縁もあってか、天元の元に千寿郎の手紙が届いたのは無限列車の任務で杏寿郎が命を散らして暫く経った頃だった。
"蛍さんに手紙を出したのですが御返答がありません"
"蛍さんはご無事でしょうか"
"兄上亡き今、蛍さんの心身が心配で堪りません"
千寿郎の手紙の内容は、無限列車任務からぴたりと途絶えた蛍の連絡について。
命は無事だと聞いているが、もしや動けない程の重症ではないのか。そんな心配を尽きさせない千寿郎に天元が取った行動は、心配するようなことはないと当たり障りのない手紙を返すことだけだった。
本来ならば、意気消沈している蛍の背を押して千寿郎の下へと突き出したい。
後ろめたさで向かえないのなら、無理矢理にでも担いで連れていくこともできる。
それができずにいるのは、杏寿郎や千寿郎の為ではない。
蛍自身を思うが故だ。