第37章 遊郭へ
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びゅう、と強い風が頬を打つ。
しゃらりと煌めく額当ての宝石を揺らす男の顔は、微動だにしていない。
(今日も異常なし…やっぱり尻尾を出さねぇか)
屋根の上で腰を落ち着け、花街を見下ろす天元の視線は鋭い。
しかしその目は未だ目的の者達を捉えられずにいた。
最後まで残っていた善逸もどうにか京極屋に売り込めた。
といってもほぼ押し付けと同じで、タダで身売りさせたようなものだ。
それから一週間は経つが、善逸は勿論、炭治郎からも伊之助からも有益な情報は何も流れてはこなかった。
(嫌ぁな感じはするが鬼の気配ははっきりしねぇ。煙に巻かれているようだ)
天元自身も探りを入れ続けているが、相変わらず鬼特有の嫌な予感をほのかに感じるだけで、それ以上のものは何も上がってこない。
気配の隠し方の巧みさは、下位の鬼とは比較にならないようだ。
そして何より蛍の気配もまたぷつりと途絶えたまま尻尾を掴めないでいる。
(蛍の生存は甘露寺が預かっている"影"で確認が取れている。あいつの命は無事なはず)
その為に影の一部を柱に預からせているのだ。
蛍の消息が絶った後すぐさま鎹鴉を蜜璃へと飛ばし確認を取った天元は、一先ず胸を撫で下ろした。
それでも命が無事なだけで、心身が無事とは限らない。
鬼は多少の拷問でも死にはしない。
それを蛍としのぶのやり取りで目の当たりにしていたからこそ、天元は不安も拭えないでいた。
己の身だけでなく、攫った蛍や雛鶴達の足取りまで隠す上手さは並大抵の鬼ではない。
(もしや…)
もしかしたら嫌な気配の先には、十二鬼月──強いては上弦に匹敵する実力の鬼がいるのかもしれない。