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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



「はァア"?」

「!?」


 もう姿の見えない鯉夏花魁の姿を、ぼんやりと目で追っていた。蛍のその意識を引き戻したのは、荒立つ帯の声だ。
 慌てて押さえて辺りを見渡せば、人混みは有名な花魁道中に夢中な為、人気はなくなっていた。
 ほっと安堵の息をつくも、二度目の出来事に帯を握る手に力を込める。


(誰かに聞かれたらどうするのっ)

(お前が可笑しなことを口走るからだろ。鬼の癖に、何を知った顔で餌なんかの人生に口出ししてんだい)


 鬼が人間に寄り添うことに反感するのは、尤もな感情だ。
 それ以上に帯の気を荒立たせたのは、蛍が鯉夏の生き方を認めたことだった。

 同じ遊女として夜の街を生きていたからこそ、蛍にも帯の感情は理解できた。


(知った顔でいるつもりはないけど…わかるよ。私も鬼になる前なら同じ気持ちだったと思うから)


 できるからこそ、生まれる思いもある。


(そんな生き方、所詮綺麗事だって。自分だって何者でもないのに上から目線で遠ざけてたと思う)


 結局分かり合えないことを、相手を得体の知れない者として遠ざけるのだ。
 自分とは理解し合えない生き物と決め付けて。


(でもそれって、自分にはそんな生き方しかできないって言ってることと同じものなんだよね。自分は、遊女は、こうした道しか歩めないんだって)


 そうして、自分の価値はこれだけのものだと決めつけてしまう。
 自分で自分を下げていることにも気付かないまま。


(鯉夏さんには鯉夏さんの生き方があって、蕨姫姐さんには蕨姫姐さんの生き方があるだけ。そこに正解はないし、どっちも意味のある生き方だと思う。だから胸を張っていていいよ。ただ周りを否定し過ぎないでいて欲しいだけ)

(自分の生き方に胸を張れてるから、他人を間違ってると指摘もできるんだ。当然だろう)

(でも否定し過ぎると、余計に自分の生き方を惨めにさせてしまう気がする)

(……)

(私は、だけど)

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