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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



 残されたものは、ぽっかりと胸に空いた虚無感のようなものと、姉さんへと深く墜ちる哀しみ。
 私を鬼にした無惨への怒りなんてものも実際は何もない。
 だからと言って無惨に従う気はないし、人間を喰べるなんて以ての外。

 それがきっと周りからすれば異端なんだろう。
 でもそれが私に与えられた人生の結果だ。


【人をくらいたい人がいないのなら 鬼になりたい人もいない】
【誰も人殺しをしたくて 鬼になったわけじゃない】
【それでも血のしはいに負けると 愛するひとも殺してしまう】


 それはこの人の世で見れば"悪"となるだろう。
 でも…私は生憎、その人ではないから。
 正当化しようとは思わないけれど、そこに疑問を感じてしまう。


【そのすべてを鬼と称し 憎きものとする人間が 私は怖い】


 鬼となれば、今まで培ってきた人間性は全て否定される。
 ただただ滅する為だけの対象となる。
 そこに鬼の"個"を視ようとする者は一人もいない。
 いても異端だと周りに撥ね付けられる。

 それが鬼と成って新たに知った浮世の現実だ。


「…怖いか…」


 ふぅむ、と静かに唸る声。
 その続きはなく、顔色を伺い見上げることはできなかった。
 偉そうなことを言ったと思われたかもしれない。

 だけど徐に煉獄杏寿郎の表情を知ることができた。
 自らその腰を折って、私と目線を合わせて問いかけてきたからだ。


「では俺のことも怖いのか? 鬼の少女よ」


 考えるまでもない。
 此処にいる人間は全て、鬼を狩ることを目的としている人達。
 頷いて返せば、またもふぅむと唸る。


「奇遇だな。俺も君が怖いぞ!」


 かと思えば、素っ頓狂な返事を返された。

 私を?
 きっと実力差は大きなものなのに?


「俺が見てきたどの鬼とも違う君は、得体が知れない。何を考えているのかわからない。何を仕出かすのかもわからない」

「……」

「だから君のことを知りたいと思った」


 こんな強い色を持つ人でも、何かを恐れることがあるんだ…。
 だけどそんな空気は微塵も感じない。
 それがこの人の持つ"強さ"なんだろう。

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