第4章 柱《壱》
「鬼を殺さず拘束するなど、なんの意味も成さないと当初は反対した。しかし自由を奪うことと我らの敵を知る利を理由に、柱は君を受け入れた」
はしら?
何処かで聞いたような…ああそうだ、初めてこの人が話し掛けてきてくれた時、そんなこと名乗ってたっけ。
あの時は生きることに精一杯で、この人の声を全く拾っていなかった。
「よもや君も我らを畏れていたとはな。こうして話さなければ、知り得なかったことだ」
だけどこの人は違う。
私の声を拾って、自分なりに理解しようとしていた。
そこにどんな感情が入り混じっているのかわからないけれど、そんなことを言ってきた人間は初めてだった。
初めて、この人の声に耳を傾けてみたいと思った。
「……」
「む?」
暫く躊躇(ためら)った後、再度砂地を掘る。
【だったら あなたのことを教えて】
人を喰べる道を選ばなかった鬼がいたと、冨岡義勇に教えてもらった。
ならば鬼を殺さない道を選べる人間も、いるかもしれない。
此処は鬼殺隊で、この人は隊士。
それを望むのは余りにも絶望的だけど、此処から逃げられないなら、せめて思いを交わせるだけの人と話してみたい。
「いいだろう!」
恐る恐るお願いすれば、彼は快く了承してくれた。
「俺は炎柱の煉獄杏寿郎だ!」
「……」
あ、そこから始めるのね…。
そうだよね、話半分にしか聞いてなかったのは私の方だものね。
ごめんなさいね。
自己紹介、しないとね。
【私は 彩千代蛍】
「彩千代少女か! 俺の字はこうだ!」
隣に並んで、ガリガリと棒先で名前を綴る。
れんごくってそう書くんだ…あ、思った以上に難しい。
「……」
「違うぞ、こうだ」
「っ…」
「難しいなら名前でいいぞ」
いや、呼び方の問題じゃ…あ、でもこっちの方が書き易い。
杏寿郎、と綴れば「よくできた!」と相も変わらず張った声で返される。
なんだか読み書きの練習をしているみたいだ。
…姉さんも、こんなふうに何度も文字を綴ってつき合ってくれたっけ。