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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



(望むのは自分と兄の幸せだけ…か)


 鬼が口にするには珍しい言葉だと思った。
 今まで出会った悪鬼達が牙を剥いて言うことは、他人への侮辱や蔑みばかりだったからだ。
 その中でも特に力を持つ上弦の鬼が、己と己の大切な者の幸せを願うという。

 それだけの思いを抱える何かが堕姫にあったのだろうか。


(って何考えてるの)


 はっとして目を瞬く。
 どうあっても相手は上弦の鬼。
 それだけ人間を喰らってきた悪鬼だ。
 例え同じ鬼だとしても、人間味を感じるところがあったとしても、それで全てが許される訳ではない。

 自分は鬼殺隊に属する鬼。
 宇随天元と共に遊郭に潜入しに来た鬼だ。


(そうだ。どうにか天元と連絡を取れる方法を考えないと)


 預けられた忍獣の鼠は、堕姫と妓夫太郎に見つかったあの日に離れ離れになってしまった。
 遊郭の広大な土地を支配している堕姫の術である帯は、近付けば近付く程詳細に物事を拾い上げる。
 それは小さな獣の行動をも見逃さない。

 天元に手により鍛え上げられた忍鼠も、その危険性は理解していたのだろう。
 堕姫の禿として蛍が働き出すと、ぱったりとその痕跡は周りから消えた。

 同様に忍鼠の周りからも蛍の痕跡は消え去っているのか。
 それとも蛍の居所をわかっていながら実力差故に近付くことができないのか。


(後者なら天元さえいれば解決の糸口になる。そうでないということは…)


 雛鶴達同様、蛍の手掛かりもまた天元の掌から抜け落ちているのか。


「ほらボサっとしてんじゃないよ。仕事の時間だよ」


 どうすれば天元へ無事なことを知らせられるのか。
 考え込もうとするより早く、蕨姫花魁として支持を飛ばす堕姫に思考が中断される。

 解決の糸口を辿るには、もっと自由に動き回れるようにならなければならない。
 その為に今自分ができることは、目の前のこの鬼との間にある疑惑を払拭することだ。


「白梅」

「っはい」


 自分のものではない名に声を上げる。
 恐らく堕姫が気に入っている名なのだろう、同じに梅の形をした簪をした花魁に頭を下げ、蛍は部屋の外へと踏み出した。











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