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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



 然程日数は空いていないが、それでも一人遊郭に置いてきてしまった。

 雛鶴達は店は違えど同じ遊郭で潜入捜査をしていた為、三人で協力し合えるところもあったはずだ。
 だが蛍は違う。
 人間であった頃に死に至らしめた場所と変わらぬ花街に一人で身を潜めて、まきを達を、悪鬼を捜し出すとあらば。体力も神経も使うだろう。
 彩千代蛍という鬼の実力を軽視している訳ではないが、それでも頭の隅に不安は残る。

 花魁道中でもいい。柚霧として遊女をしている姿を拝めれば、どれだけこの不安も薄れるだろうか。


「嫁!? もしや嫁ですか!? あの美女が嫁なの!?!!」


 そんな天元の思考をぶった切ったのは、発狂しそうな勢いで詰め寄る善逸だった。


「あんまりだよ!! 三人もいるの皆あんな美女すか!!」

「嫁じゃねぇよ! 近ェな!!」


 血の涙でも流しそうな善逸の剣幕に、つい天元も拳が出る。
 せめて顔ではなく頭を殴り付けたのはまだ幸い。折角の化粧が崩れれば、更に目も当てられない醜女となってしまうだろう。


「なんだアイツ歩くの遅っ。山の中にいたらすぐ殺されるぜ」


 ぎゃあぎゃあと喚く二人を他所に、耳を指で穿りながら鯉夏花魁を傍観していた伊之助の頭に、不意に落ちる影。
 そこには真後ろから覗き込むようにして、伊之助のおかめ化粧を凝視する女がいた。


「ちょいと旦那」

「ん?」

「話を聞かせてもらったよ。この子達を売り歩いているんだって? ならこの子をうちで引き取らせておくれよ」


 鋭い目つきの女は、じろじろと伊之助を品定めするように頭から爪先まで眺めた後、迷わず天元に交渉を申し出た。


「荻本屋のやり手…アタシの目に狂いはないのさ」

「荻本屋さん! そりゃありがたいっ」


 ときと屋の次に赴く場所は京極屋か荻本屋と決まっていた。
 その一つがこちらが出向いて、尚且つ伊之助を買い取りたいと言い出したのだ。一つ返事で答えは決まっている。
 ぱんと両手を叩いてよそ行きの笑顔を浮かべると、天元はよく事情を呑み込めていない表情の伊之助をそのままに押し進めた。


「よかったなぁ猪子(いのこ)!」

「猪子? また変な名前だねぇ」

「ぜひ荻本屋さんで素敵な名前を付けてやってくれ」

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