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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



「──本当に駄目だな、お前らは。二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」

「俺アナタとは口利かないんで…話しかけないでもらえませんか」

「はぁ? 女装させたことまだキレてんのか? 最初になんでも言うこと聞くって言っただろうが」


 元より金を巻き上げる気はないが、それでも並の少女の値段でさえも売れない。
 炭子ならぬ炭治郎をときと屋に預けて再び夜の花街に繰り出した天元は、深々と溜息をついて振り返った。
 そこにはおかめ面をしながら至極冷たい目を向けてくる善逸がいる。

 善逸にとっての沸点はそこではない。
 更なる怒りを覚えたのは、天元のその素顔だ。
 ときと屋の女将との交渉が上手くいったのも、その顔面偏差値の高さに他ならない。
 目の前にいる着流しの色男はなんだ。

 三人も嫁がいると聞いた時点で一度爆発した怒りが、またふつふつと湧き上がるようだ。
 筋肉隆々な体躯をしておきながら、その上に乗っているのは目の肥えた花街の女でさえも振り返る美形ときたものだから。二物ならず三物、しまいには四物も天から与えられたような天元の容姿に、善逸は冷戦を強いていた。


「おい! なんかあの辺、人間がうじゃこら集まってんぞ!」


 そんな善逸とは対照的に、特に気にした様子もなく花街を歩いていた伊之助が声を上げる。
 指差す先には大勢の人通り。
 しかしその人混みも一定の距離を保って"道"を開けている。


「あー、ありゃ花魁道中だな」

「オイランドウチュウ?」

「その名の通り、花魁の道行きよ。一番位の高い遊女が客を迎えに行く時に起こるもんだ。あの顔は…ときと屋の鯉夏花魁だな」


 つい先程、炭治郎を売り飛ばしてきた店だ。
 しゃなり、しゃなりと頭一つ分はあろうかと思われる高下駄を上品に揺らして歩くは鯉夏花魁。
 品の良さそうな顔立ちは、彼女の性格そのものか穏やかで優しげのある雰囲気を纏っている。
 額の上に片手を翳して遠目に見る天元は、目を見張るもののその美貌には興味を惹いていなかった。


「それにしても派手だぜ、ありゃ。いくらかかってんだ」


 大勢の禿や新造(しんぞう)を引き連れて歩く盛大な遊女の見栄に、頭に浮かぶのは金銭のこと。


(そういや…"柚霧"も、あんな道中してんのかね)


 そして一人の遊女のこと。

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