第37章 遊郭へ
蛍が荻本屋で花形花魁となった頃合いを見届けた後、天元は再び鬼殺隊本部へと戻っていた。
理由は、新たな遊郭潜入捜査の適任を探すため。
その一つとして蝶屋敷にいたアオイやなほ達に手を出したが、嫌がる彼女達を救ったのが居合わせた炭治郎達だった。
アオイは隊服は着ているが、任務には出ていない少女。
それよりも上弦とも遭遇した炭治郎達の方が使えると見て、天元は三人を連れて再び花の夜街を訪れていた。
それでも炭治郎・善逸・伊之助の三人は生粋の男子。
遊郭の内部に踏み込めるのは女性のみ。
だからこそこの手で多少派手な化粧をさせて女装させたが、なんともまぁ出来の悪い三人娘が仕上がってしまった。
(ま、こんなもんだろ)
しかしそれも天元には想定内のもの。
寧ろわざと不細工な化粧を施したのだ。
でなければ伊之助などはすぐに欲の塊である男達の餌食になってしまうだろう。
客は人間だとしても、場所が場所なだけに姑息な考え方をする者も多い。
卑怯で、ずる賢く、裏切りもする。
人間の中にも悪鬼と相違ない思考を持つ者はいるのだ。
いくら鍛えているとは言っても、未成年である炭治郎達にそんな花街の陰をわざわざ経験させる必要はない。
女の世界を知っている、くノ一である雛鶴達や、遊女経験のある蛍ならまだしも。
だからこそ彼女達とは違い、炭治郎達の顔には男を寄せ付けない為の化粧を施したのだ。
「それより準備ができたらさっさと出向くぞ。夜は待っちゃくれねぇんだ」
夜は鬼の時間であると共に、この遊郭でも活気付く時間である。
騒ぎ立てる善逸達の化粧が崩れる前に、目星を付けた三店舗にこの三人娘を売らなければならない。
ぱんと手を強めに叩くと、天元はその場を仕切り直した。
「お前が夢中になってた遊郭だ。じっくり見られる機会だぞ」
女好きな善逸は、遊郭に足を踏み入れた中で一番に顔を高揚させていた。
その性格をすぐさま見透かしていた天元が誘えば、渋々ともおかめ面の善逸も抗いの口を止めたのだった。