第37章 遊郭へ
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「おっまえら、本当マシな顔立ちになんねぇな!」
握った化粧筆を立てて、呆れた声を上げる。天元の容赦ない物言いに、ぴきりと額に青筋を立てたのは金髪の頭の少年──否、少女だった。
「そうさせてんのはアンタでしょーが! 自分の隈取り化粧は繊細に描ける癖になんだよこの荒化粧! わざと!? わざとなのこれ!?」
「お前の元々の顔立ちが化粧負けしてるだけだろ。何言ってんだ」
「さも正論のように言う!!!」
その口から発せられる声は未成年独特のものでも、少女のものではない。少年のものだ。
子猿の如くムキー!と怒りを荒げるは、天元に厚塗り化粧を施された我妻善逸。
顔全体に厚塗りしたおしろいで、任務により焼けた肌は白く隠されている。
ついでに眉毛も塗り潰され、ぽちょんと丸いまろ眉が描かれている始末。
瞼を押し上げるように睫毛を三つ程束にして長く上げている様は、子供が大人を真似た拙い化粧のようだ。
強いては頬と唇に赤々と主張するチークと紅。
全体を見れば祭りの出店で売られている、おかめの面そのもののようだった。
その化粧全てが天元の手で仕上げられたものなのだから、お前の所為だと言いたくなるのも仕方がない。
「まぁまぁ、落ち着け善逸。これは任務に必要なことなんだから」
「寧ろお前はなんで普通に受け入れていられるわけ!? 自分の顔鏡で見たか!? 地獄だぞ!!」
笑顔で善逸を落ち着かせようとする炭治郎の顔もまた、善逸そっくりのおかめ化粧。
「それよりその"店"に行きゃあ美味いモン食べられるのかよ。天ぷらはあんのか!」
「お前の頭ん中は天ぷらで出来てんの!? 俺らは今から売られに行くの! 遊女だよ遊女!」
「まだ禿だけどな。お前らのそんな出来じゃ遊女になれるかも怪しいぜ」
「だからそうさせてんのはアンタでしょーがッ!!」
「天ぷら」と高々叫ぶ伊之助もまた、天元の命により猪の被り物を外されている。
更には、本来は女顔負けに整った顔立ちをしている伊之助の素顔も、立派なおかめ化粧に仕上げられているのだ。
どう考えても意図的な化粧だと突っ込みたくなる善逸の心中を察してくれる者は、残念ながらこの場にはいない。