第37章 遊郭へ
鬼には上弦・下弦の位を付けられた者達がいる。
義勇の鬼講座により知っていたが、教えられずとも一体の鬼につき一つの数字がついているものだと思い込んでいた。
しかし目の前の兄妹は、確かに同じ数字を瞳孔に刻んでいるのだ。
何故か。二人が兄妹だからか。
だとすれば到底顔は似ていないが、本当に血の繋がった家族なのか。
「ふぅん…へぇぇ」
ぼりぼりと黒い痣を掻きながら、屈み込んだ男が軽々と頭のない正一の体を放り投げる。
そうして距離を詰めた影を落とす眼は、じろじろと至近距離から蛍を舐めるように見た。
花街で数多くの男達に寄せられたような熱い視線ではない。
ただただ背筋の後ろに走る緊張に、蛍は座り込んだまま息を呑んだ。
「やっぱりなぁ」
頭から爪先まで見ていた男の視線が辿り着いたのは、蛍の瞳。
じっと両眼を覗いていたかと思えば、不意に顔を上げて頷いた。
「お前、"皮"被ってんなぁ」
皮とは。
聞き慣れない単語なのに、見透かされた気がしてぴくりと肩が揺れる。
「上手く化けたようだが、オレの目は誤魔化せねぇよ」
「は…? なに、そいつ生まれ持った美しさじゃないの?」
「元々の顔はわかんねぇがなぁ。こいつは頭から足の先まで皮で生きてやがる」
擬態をしていたことを見抜いた男に、誰より反応を示したのは妹の鬼だった。
途端に蛍を虫けらでも見るような目で冷たく蔑む。
「何それ。お笑い草にもならないわ。見せかけの美で花魁に成り上がろうなんて、虫唾が走る」
元々蛍に対して好意的ではなかったが、擬態を取ったことが拍車をかけたようだ。
牙を剥き出し今にも手を出しそうな女に、気怠そうな態度を変えずに兄がやんわりと制す。
「まぁ待てつってんだろぉ。こいつは望んで花魁になったんじゃねぇ。恐らくなぁ」
「はぁ? なんでそんなことお兄ちゃんにわかるのよ」
「本当に喜んで男に奉仕してんなら、お前だってアレに手を出したかよぉ」
アレと告げた男の目が、首無しの死体を示す。
途端にぐっと牙を噛み締めて押し黙る妹のそれは肯定と同じだった。