第9章 柱たちと年末年始✔
訓練をしないなら何をするんだろう。
また話し相手にでもなってくれるのかな。
一人で檻の中にいるよりは杏寿郎と一緒に過ごした方が楽しい。
三日目の日中は、そんなことを期待してそわそわしていた。
折角の時間を飢餓症状に邪魔されたくないから、杏寿郎が来る前にと自分の血を飲んでまで。
大した効果はないけど、飲めば少しは落ち着くから。
そんな様子を見ていたあの隻眼鴉には、無言でドン引いた顔をされたけど。
仕方ないでしょ、鬼は何かと不都合なんだから。
話せるとわかって更に声を掛けても、隻眼鴉は相変わらずの知らんぷり。
もういいやと半ば諦めながら、それでも相槌のない聞き役として話し掛けていた。
杏寿郎が、再び檻の前に姿を見せるまで。
「夜分に邪魔する!」
宣言通り、杏寿郎は夜空に月が昇ってから姿を現した。
いつものように腕を組んで胸を張って大きな声で。
「どう…ぞ?」
だけど私は上手く応えることができなかった。
というか別のものに目が奪われていたというか。
「こんばんは、蛍ちゃんっ」
檻の前に姿を見せたのは杏寿郎だけじゃなかった。
にぱりと笑顔を浮かべて杏寿郎の隣に立っていたのは…蜜璃ちゃん?
「今日は一段と冷えるわねっ」
「う、うん…?」
確かに今の季節は冬だから冷えるけど…というか言葉と表情が噛み合ってない。
凄く笑顔で嬉しそうに言われた。
寒いの好きなのかな?
「ったく、煉獄も世話焼きだよなぁ。オラ、邪魔するぞ」
「…なんで、天元まで…」
そして増えた人影は一つだけじゃない。
我が物顔でズカズカと檻の中に入ってきたのは、筋肉忍者の宇髄天元。
その手には分厚い布と木箱のようなものと…何それ?
「あの、杏寿郎」
「ん?」
「これ何?」
いきなり数人の柱が姿を見せたかと思えば、我が物顔で狭い檻の中に入ってくる。
不思議に思って、恐らく指導者であろう杏寿郎に問えば「見ていればわかる」となんとも曖昧な返事を貰った。
いや、あの、本当に何事?