第9章 柱たちと年末年始✔
「な、なんで笑うの?」
「いや…っ本当に、君は、面白いことを言うものだな、と」
目が合ったのはよかったけど、くつくつと笑われて顔が熱くなる。
そ、そんな面白いこと言ってる気なんてないけど…っ
「案ずることはない。寝顔に変なところなんてなかった」
口元に拳を当てて未だ可笑しそうに笑っている。
そんな小さな含み笑いは今まで見たことがない。
「寧ろ心地良く眠れていたようで安心した」
ようやくその笑い声を抑えた杏寿郎の手が、ぽんと私の頭に触れる。
わしわしと優しく撫でられて、感じていた違和感が視線以外にもあったと気付いた。
なんだか上手くは言えないけれど。
触れてくる手が、向けられる目が、優しい。
杏寿郎が優しいことなんてとっくに知ってることなのに、いつもの吹き飛ばすような強い明るさがないからだ。
穏やかな表情だった。
思わず見入ってしまうくらいに。
「礼を言う、蛍少女。君が君で在るお陰で、俺も俺のままでいられそうだ」
「?」
自分は自分のままって…どういう意味?
「というか、少女は要らないって…」
「ははっ、そうだな。一刻も早く慣れるように俺も精進しよう」
余りにも杏寿郎が穏やかに笑うから。
意味のわからない言葉も、相変わらずの少女呼びも、なんだか受け入れてしまう自分がいた。
「それでは、また明日」
「明日?」
明日って?
明日まで義勇さんに言われて休暇になってるはずじゃ…。
「一日、ゆっくり休んでくれていい。ただ夜は時間を貰ってもいいだろうか」
時間?
なんだろう。
「何かの訓練?」
「蛍少女の休暇だ。訓練はしない」
「じゃあ何?」
「それは、明日また来た時に伝える」
それ以上は何も告げず、今度こそ杏寿郎は檻を出て行ってしまった。
気にはなったけど、明日また杏寿郎と会えるのならいいかな、なんて。
去る背を見送りながら、自然と伸びた左手は撫でられた頭に触れていた。
…早く明日にならないかな。