第9章 柱たちと年末年始✔
「そうか…ならば、」
「うん」
遠慮なくどうぞ。
「…蛍」
「…うん?」
え、そっち?
「と、呼んでも、構わないだろうか」
「あ、うん…それは別にいいけど」
偶に、極偶に。
しかと私に思いを届けてくれる時とか、名前を呼んでくれていた杏寿郎だから、そこまで驚きはなかったけど…でも、胡蝶と同じで姓名で呼ばれてたから。
名前だけってなんだか少し違和感。
「蛍、少女」
「だから少女要らないって」
なのにゴホンと咳払いした杏寿郎は、何故か少女呼びで濁す始末。
なんでそこ頑ななのかな。
「む…こう、急に呼び捨てにするのは妙に構えてしまって、だな…」
「他の人達は皆、呼び捨てなのに?」
「むぅ」
お館様以外。
そう問い掛けても、目を逸らす杏寿郎は濁った返事しかしない。
…あ。
違和感の正体、わかったかもしれない。
「杏寿郎?」
「なんだ?」
「…こっち、なんで見ないの?」
杏寿郎の特徴の一つに、その強過ぎる眼力がある。
真っ直ぐ迷い無く貫くように見てくる、見開いた瞳。
なのに何故かその目が頑なに逸らされていた。
最初は何処を見ているかわからない時も多かったけど、最近はそうでもなくなった。
なのにさっきから目線が合わないから違和感があったんだ。
覗き込もうとすれば顔を逸らされるし。
なんで。
「もしかして、」
「! 違うぞ、これには別に深い意味は」
「私の寝顔そんなに酷かった?」
「…む?」
まさかとは思うけどそのまさかかもしれない。
あんなに至近距離でずっと寝顔を見られていたんだから鼾(いびき)の一つでもかいても拾われてしまうし。
もしかしたら薄目で寝てたり…!?
いつも空腹だから涎垂れてたのかも…!
「目も当てられない程、ひ、酷かった、の?」
訊きたくないけど、訊いておかないと。
もしそうだとすれば女の恥。
これからは絶対布団を被って寝ようそうしよう!
両手で顔を覆ったまま、指の隙間から恐る恐る見る。
するとぽけっとした杏寿郎の顔がこっちを…あ、目が合った。
「ふっ」
「!」
かと思えば笑われた。
声を上げて胸を張るようないつもの笑い声じゃなくて、小さな含み笑いで。