第9章 柱たちと年末年始✔
「寝ている間に、失った手もほとんど形を取り戻したようだな」
「…ぁ」
言われて見下ろせば右手の感覚があることに気付いた。
包帯をぐるぐるに巻いている手首の先には、拳のようなものができあがっている。
指はまだ動かせないけどそれも時間の問題だろう。
「痛みはまだ続いているか?」
「…あんまり」
「そうか。よかった」
私の右手を診ていた杏寿郎が、ほっとしたように息をつく。
自然な行為だけどそこに何か違和感を覚えた。
…違和感?
違和感と言うには少し違うような…でも、いつもの杏寿郎と何か少し違うような。
「ではそろそろ俺も帰るとしよう。やらねばならないこともある」
静かに腰を上げる杏寿郎に、やっぱり無駄な時間を過ごさせてしまったと申し訳なくなる。
「ごめんね、仕事の邪魔をして…」
「邪魔などしたか?」
「私につき合ってくれたから」
檻を出ようとする杏寿郎を見送る為に付き添う。
檻の出入口前で振り返った杏寿郎は、ゆっくりと頸を横に振った。
「迷惑に感じる必要はないぞ。俺は柱だ、自分のすべきことを疎かにはしない」
それは…そう、かもしれないけど。
「それに彩千代少女の師でもある。継子には出来の良いところを見せておかなければな」
笑って応える杏寿郎の言葉に、改めて自分が彼の継子になったんだと悟る。
…鬼の私でも弟子として迎え入れて認めてくれるなんて。やっぱり杏寿郎は凄いなぁ。
じゃあ私と蜜璃ちゃんは相弟子みたいな関係になるのかな?
「彩千代少女?」
むむ、とつい考え込んでいると杏寿郎の声に呼ばれる。
…あれ、もしかして違和感って…
「そういえば、なんで杏寿郎は私のことを彩千代"少女"って呼ぶの?」
蜜璃ちゃんは普通に苗字呼びなのに。
それ以外の柱仲間も、皆。
「私、少女って呼ばれる程幼くないと思うけど…」
「む。そう、か?」
柱の年齢なんて知らないけど。
一応、姉さんに成人祝いの一張羅を過去に貰ってる身だし。お酒も飲める年齢です。
だから蜜璃ちゃんとあんまり年の差ない気がするなぁ…感覚的に、だけど。
「継子だった蜜璃ちゃんだってそう呼でないでしょ? 普通に彩千代でいいよ」
少女なんて付けると長くて呼び難そう。