第9章 柱たちと年末年始✔
それはなんだか温かい目覚めだった。
薄い布団の中では感じられない、得も言えない温かさ。
そんな温かさに包まれながら、ふと意識が浮上するかのように静かに起床する。
「ん…」
もそりと温かい布団が微かに動く。
…動く?
「?」
奇妙な違和感に目元を擦りながらぱしぱしと瞬く。
ようやく見えてきた目の前の光景は、よく知った狭い檻の天井…じゃない。
「…起きたか」
「へっ?」
思わず変な声が出てしまった。
見えたのは狭い檻の天井じゃない。
目線を逸らして呼び掛けてくる、杏寿郎の間近にある顔だったからだ。
丸くなって寝そべっていたのは布団の中じゃない。
囲うようにして抱いてくれている、杏寿郎の腕の中だったからだ。
…えちょっと待って。
「おはよう彩千代少女」
「おは…じゃない! 私まさか寝落ちて…!?」
はっとする。
寝入る前の記憶はある。
寝落ちた瞬間の記憶はないけど。
杏寿郎の止まらない長話を聞いていたはずだった。
しまった、寝落ちてしまったんだ。
折角蜜璃ちゃんの話をしてくれていたのに。
「ご、ごめん…」
「いや、それは構わない。君が疲労していたことを知っておきながら、話し込んだ俺の責任だ」
「そんな…というか、まさかずっとこうしてたの…?」
どれくらい寝ていたかわからない。
でも小さな小窓を照らしていた太陽の光は、すっかり消えていた。
長いこと寝てしまったんだ…怪我してた所為なのかな。
禰󠄀豆子みたいな冬眠はできないけど、疲れで睡眠を必要とするところは少し似てるのかもしれない。
「動いて起こしてしまっては悪い気がして、だな」
「そんな、起こしてくれていいよっごめん、体制きつかったでしょ」
「問題無い。これも忍耐の修行と思えば」
慌てて腕の中から離れようとすれば、すんなりと杏寿郎は腕を解いてくれた。
忍耐の修行って。
杏寿郎らしいけど…というかなんの忍耐?
睡魔からの?