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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第36章 鬼喰い



「…鬼殺を始めるにも早い時間だと思うけど」


 驚いたものの相手は柱だ。
 現に過去、杏寿郎にも黙って隣部屋を出た際にすぐに気付かれていた。

 静かに問いを返せば、大きな傷跡の走る実弥の額に皺が寄る。
 それでも声を荒げはせず、手持無沙汰にがしりと後頭部を荒く掻いただけだった。

 ここで騒げば、蜜璃達を起こしてしまう可能性がある。
 それをさせない為に自分も息を潜めて此処へ来たのだ。


「俺はいンだよ。別件で任務が入ったからなァ。今から出て丁度良い頃合いだ」

「私も、今から出れば丁度行きたい場所に着く頃合いだから」

「な訳ねェだろ取って付けたような嘘吐くなコラ」


 飄々と続く蛍には、思わずぴきりと青筋も浮かんだが。


「本当だよ」

「じゃあ訊くがその目的地ってのは何処だァ」

「…ええと」

「テメェの浅い嘘くらい見破れるわ阿呆」


 そら見ろと言わんばかりに大股で近付いて、べしりと竹笠の上から平手打ちを一つ。


「痛っ」

「痛くねェだろォこんくらい」

「いや、何気に痛いから。お面越しの衝撃がこっちまで伝わるというか…とにかく痛いから」

「なら外せそんなモン」

「そんなもんじゃないです。義勇さんがくれた鬼殺隊の証で」

「ァあ?」

「顔怖っ」


 両手で狐面の上から頬を押さえて固定する蛍の、その静かな主張が気に入らない。
 当然のように水柱の名前が入っていれば尚の事。
 ずいと顔を近付け、至近距離からガンを飛ばす実弥に思わず蛍も一歩後退る。


「逃げんな」

「逃げてない逃げてないから、腕掴まないで。顔怖い」

「元からこの顔だァ慣れろ」

「そんな血走った眼孔かっ開く顔なんていつもしてる人いないからっ怖いからっ」


 夜が迫る夕暮れ時。
 騒ぎ立てずとも押し問答を繰り返すこと数十秒。


「はぁ…不死川って、時々極端だよね」


 先に白旗を上げたのは蛍だった。
 脱力気味に肩を落として力を抜く。


「周りに興味ない時はとことんないのに、ある時はとことんしつこい」


 下げた視線の先は、未だ腕を掴んで離さない彼の手だ。

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