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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第36章 鬼喰い



 本部外で柱が三人以上集うことも珍しい。
 蜜璃は意図的な行動だったが、自分だって蛍を藤の屋敷まで引き摺ってきた身だ。
 偶々一泊する宿が同じことにも、目くらい瞑れる。


「風呂に入る時くらいは鏑丸のこと見ていてやるよォ」

「お前が面倒を見たいだけだろう。不死川」


 軽口は叩くものの、実弥の目は圧を生まない。
 頭を擡げて身を寄せる白蛇に、返す視線もどことなく柔い。

 人間と鬼以外の生き物に、実弥の殺伐とした気配はまず向かない。
 寧ろ面倒見の良いところがあるからこそ、鏑丸もその体には大人しく身を預けられるのだろう。
 見たことのない野良犬や野良猫を構っている姿も時折見ていた小芭内は、包帯を巻いた口内だけで息をついた。
 蜜璃とは真逆の性格をしているが、実弥もまた小芭内にとって気を許せる同胞の一人だ。

 蜜璃の手こずっていた鬼は斬首まで少しばかり時間をかけたが、結果は上々。
 こうして五体満足で気を許せる者達と一息つけるのは、ありがたい時間だ。


「じゃあ私もすぐひと浴びしてくるから、蛍ちゃん待っていてくれる?」


 簡単に身を寄せられない相手が、ただ一人だけその場にはいたが。


「……」

「蛍ちゃん?」


 明るく振る舞う蜜璃の手が繋がれた先。
 先程から一言も発していた鬼を、小芭内は静かに両の目に映した。

 蜜璃に顔を覗き込まれているが、その視線はこちらへと向いている。
 唇を真一文字に強く結び、硬直したように開いた赤い瞳は言葉無く訴えていた。
 その鬼の中に渦巻く、形容し難い感情を。


「蛍ちゃん、どうしたの? なんだか顔色が…」

「大方、血でも足りないのではないかね」


 見開き、微かに揺らぐ鬼の目を見返して、今度はふぅと音を立てて息をつく。
 小芭内の指摘に、ぴくりと蛍の鋭い爪先が震えた。


「えっそうなの?」

「そりゃねェな。コイツには俺の血を今し方やったばかりだ」

「え! 不死川さんの血をっ? 蛍ちゃん大丈夫? 気分悪くなっちゃったりしたっ?」

「間違っちゃいねェが毒盛ったような反応やめろォ」

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