第36章 鬼喰い
最初にその影の一部を預かっていたのは義勇だ。
元々誰より先に蛍の単独任務への意向も汲み取り、手助けをしていた身。耀哉も二つ返事で許可を出した。
そこに些細な会話から蜜璃も担当したいと申し出たのが、つい二週間程前。
血の提供も満足にできてない自分にも何か担えるものはないかと、耀哉に半ば泣き付くような懇願だった。
影の提供も、血と同じで特定の柱だけに一任しては意味がない。
そう見込んだ耀哉の追加条件にて、定期的に影鬼の一部も柱の中で担当は変えていくこととなった。
「不死川さんもいずれお世話する影鬼ちゃんですよ~。挨拶しましょうね」
にこにこと笑う蜜璃が催促すれば、言葉を理解しているかのように手の中の影の塊が先端を擡(もた)げて、ぺこりと下げる。
まるでお辞儀のような、本当に挨拶をしているような仕草に恋柱はきゅんっと胸を躍らせた。
「可愛いわ!」
「気持ち悪ィだろ…」
見た目はアメーバのようにうねうねと不規則な形をしている、生き物なのかさえもわからない黒い塊だ。
世界がひっくり返っても可愛いなどと思えないと、実弥は口角を引き攣らせた。
「…蜜璃ちゃん」
「え? なぁに蛍ちゃんっ」
「その…影、何か可笑しかった?」
蜜璃の勢いに流されることなく、じっと己の術の一部を見ていた蛍は恐る恐ると問いかけた。
影鬼の一部を柱に預けるのは、離れていても蛍の事情を知らせる為だ。
万が一影が消滅してしまえば、それだけの異常が蛍に起こったこととなる。
その際には影を預かる柱がいち早く動く手はずとなっている。
しかし現状、蛍にはなんの異常もない。
敢えて挙げるならば稀血を採取していたが、それだけで遠距離の術の継続が切れるはずはない。
摂取する量もいつもの半分に減らしていたが、それでも影が何か異常な行動をしたのだろうか。
「さっき、そわそわしてたって言っていたし…」
もしそうならば改善していかなければならない。