第36章 鬼喰い
「なんだァそのふざけた名称…」
「あら、不死川さん知らない? 柱なら全員知ってるかと思ってたんだけど…」
「知ってるわァ。柚霧の影の一部だろ」
「そう! だから影鬼ちゃん。可愛いでしょうっ?」
可愛いか?と疑問を覚えるも余りに蜜璃の顔が満面の笑顔の為、すんでのところで実弥は呑み込んだ。
蛍は無限列車任務以降、暫くは蝶屋敷で療養に尽くしていた。
再び任務に赴くようになったのは、蛍が自ら志願したからだ。
鬼の為に体は既に回復していた。
問題は心だと感じていたのはしのぶや他柱達だけでなく、産屋敷耀哉もまた同じ思いだった。
それでも単独任務に許可を出したのは、それだけ蛍の決意が強かったこともある。
そして耀哉が課した条件を呑んだ為である。
提示された条件は二つ。
一つは、最低二十日間に一度は本部に詳細連絡をすること。
その為には鎹鴉の文が必須となり、自然と蛍の鎹鴉となった政宗がこなしている。
全国各地を駆け巡っている蛍から、鬼殺隊本部への定期的な連絡は簡単なことではない。
そこに更に本来の任務伝達も追加されるのだから、一羽の鎹鴉だけでは困難なこともある。
それでも政宗は嫌な顔一つせずに任務を全うしていた。
隻眼であっても正確な飛行技術を持っているところ、元々の能力も高い鴉なのだろう。
二つめは、常に発動させた影を他者に預けておくこと。
それこそが蜜璃の手の中で揺れている、謎の影の正体だ。
今までの報告で影鬼の可能性を見出していた耀哉は、全集中の常中を会得した蛍には可能なことだと考えていた。
鬼殺隊当主の予想通り、無限列車以降また特殊な経緯を辿った影鬼は僅かなものであれば遠距離でもとどまらせることが可能となっていた。
ただし距離が開けば開く程、蛍の思考通りには動かなくなる。
自己を持った個体のように動き回るが、根本が蛍のものだからか預けられた柱から離れることはなかった。