• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第36章 鬼喰い



 生い茂る葉が重なり影を作る。
 人一人分は覆える木陰の下で、蛍は腰を落ち着けていた。

 次の鬼は何処だ。
 朝を迎えたのなら陰となる場所へ身を潜めるだろう。
 洞穴か。空き家か。土の中か。水の中か。
 捜せる場所は全て駆けずり回るつもりでいた。
 自分も鬼だから身を隠せる場所ならなんとなしにわかる。
 そこを捉えてしまえば、鬼に逃げ場はない。

 あの、朝日を見て逃げ出した上弦の参のように。


「…ありがとう」


 その憎しみだけで駆け巡る蛍の足を止めさせたのは、一羽の鴉だった。
 肩に停まり、冷たい狐面に羽毛を寄せる。
 何も感じないはずなのに、かける蛍の声には少しだけ柔らかさがあった。


「要」


 政宗ではない。
 時折、蛍の下へと羽根を畳みに下りてくる。それもまた見慣れた鎹鴉である要だった。

 これで何度目だろうか。
 その足首に結ばれた手紙を開けば、予想した差出人の名が目に映る。

 煉獄千寿郎。

 杏寿郎の死から三ヶ月は経った。
 兄の訃報は数日と経たず千寿郎の下にも届いたはずだ。
 その後、煉獄家へ炭治郎が顔を出し、兄の最後の任務の様子を語ってくれたという。

 炎柱のような強い柱に必ずなる。
 そう告げる炭治郎の瞳の奥に、兄と似た灯火を見た気がした。
 兄は死したが、その思いは他隊士達に繋がれている。
 千寿郎自身の目でそれを実感できたからこそ、決意することができた。

 日輪刀の色が変わらずとも、それでも懸命に剣士になろうとした。
 その思いを諦め、それ以外の形で人の役に立てることをしようと。

 蛍の知っている千寿郎は、兄にも劣らない強い意志を持っていた。
 その意志を折ってまで別の道を選んだのだ。
 並々ならぬ決意だったに違いない。

 その時、傍にいてやれなかったことをどれだけ悔やんだか。
 その時、その決意を受け止めるのが自分でなかったことにどれだけ焦燥したか。

 手紙の中の千寿郎の感情を汲み取る度に、逸る気持ちを駆り立てられた。

/ 3624ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp