第8章 むすんで ひらいて✔
「…つき合わせてすまなかった」
相手が意識を飛ばしていると思えば、不思議と素直な感情が口をついて出た。
休ませる為に傍にいると言ったのに、逆に疲れさせてしまったのではないだろうか…。
元々は、偶然彩千代少女の檻の傍に来ていた。
…いや、偶然と言うよりも意図的だ。
冨岡に彩千代少女を三日間休ませろと言われ、厳しい稽古が彼女を苦しめていたのではないかと気になって足を運んだのだから。
そこへあの鎹鴉が血相を変えて飛び出してきたから驚いた。
「もう出てきてもいいぞ。彼女は眠った」
ふと思い出した鎹鴉に声をかけるも、設置された巣箱から出てくる気配はない。
あんなに必死で彩千代少女の緊急を伝えていたというのに、無事だとわかればそっぽを向く。
なんともちぐはぐな鴉だ。
俺の声にも反応しない彩千代少女は、余程深い眠りについたのだろう。
そっと腕の中を伺えば、すぅすぅと穏やかな寝息を立てて静かに眠っている。
…そういえば彩千代少女が寝入る姿は初めて見たかもしれないな…。
宇髄との稽古の終わりに爆撃で意識を飛ばした時は胡蝶や、宇髄の奥方達が俺の代わりに看ていてくれたし。
その後の休息稽古では、冨岡の羽織の中に潜り込んで眠ってしまった彩千代少女であったし。
羽織にダルマのように巻かれていた様は気にはなったが、まさかそれ一枚でいたなんて予想もしなかったから心底驚いた。
しかし彩千代少女の必死の弁解で、冨岡と何かあった訳ではないことを知りほっとした。
「…む?」
そういえば何故ああも安堵したのだろうか。
男と女。
一つ屋根の下にあれば、起こり得ないことではない。
なのに何故。
ああも目を逸らしたくなったのか。
「……」
今は違う。
いつまででもその静かな寝顔を見ていたいと思う。
その目に俺が映っていなくとも、この目に映していたい。
一人で賢明に生きようとしている彩千代少女の傍にいて、俺にできることで支えてやりたい。
彼女の師となったからであろうか。
…いや、この妙に胸の内が沸き立つ思いは甘露寺の時とは何か違う。
常に触れていたいと思う。
その心にも、その体にも。