第8章 むすんで ひらいて✔
「それからは重点的に甘露寺の体力や膂力を向上させる為の修行を開始した。元々柔軟に動ける体をしていた甘露寺は、すぐに実践を交えられるようになった」
「ふぅん…」
「その時ふと思い立ったんだ。甘露寺のその靭やかな動きに合わせた、日輪刀を作るのがいいのではないかと。告げれば甘露寺もすぐに同意し、その後共に刀鍛冶の里に向かうこととなった」
「…へぇ…」
「刀鍛冶の里にある露天風呂を甘露寺は大層気に入ってな。其処に入り浸ることも多くなったから、俺が代わりに甘露寺に合う刀鍛冶を捜したりもしたものだ」
「…ほー…」
「女性の剣士というのも珍しかったのだろう。刀鍛冶達から甘露寺は大層歓迎された。そこで幾人もの鍛冶屋が甘露寺に連れ添うことを求めた程だ。甘露寺の恋柱の名も、恋多き彼女ならではのものだ」
訴えていた彩千代少女に、せめてもと声量を下げて話す。
それでも息継ぎも僅かばかりで、昔のことを延々と途切れることなく話し続けた。
「だがめきめきと頭角を現した甘露寺は、悲しいことに炎の呼吸とは合わなくなってしまってな。申し分ない実力も付いていたので、俺の推薦がきっかけで柱へと──」
「…すぅ」
「……む?」
ようやくその声を止めたのは、腕の中の温もりが不意に重さを増したからだ。
遠慮なく凭れてくるそれに恐る恐る目を向ける。
すると間近にあった吸い込まれそうな瞳は、もう俺を映してはいなかった。
「すー…」
「……彩千代少女?」
しっかりと瞑られた瞼。
力を抜いて遠慮なく凭れてくる体。
穏やかに上下する胸は、深い呼吸を繰り返している証だ。
……これは…寝ている、のか…?
「…彩千代少女」
「すぅ…」
「寝たのか…?」
「…ん…」
返事というには程遠い。
寝言のような吐息に、本当に寝てしまったのだと悟る。
それと同時に、ほっと自分の体も力が抜けるのがわかった。
緊張していたのか…よく、わからないが。
「…喋り過ぎたな…」
いくら彩千代少女から意識を背ける為とは言え、彼女を蔑ろにし過ぎた。
やはり疲れてはいたのだろう。
右手を失い、血も失い、しかしそれを回復へと補う為に何も補給はしていない。
疲労していない方が可笑しな話だ。