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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第36章 鬼喰い



 朔ノ夜が扇のような鰭を揺らせば、波が起こる。
 それはたちまちに鬼殺隊の剣士達を攫い、蛍の後方へと下がらせた。


「な…ッん、だこれ…」

「血鬼術…か?」


 黒い波は冷たくもなく熱くもない。
 肌に触れれば水流のような感覚はあるが濡れもしない。
 ただ優しく体を囲い、鬼の腕の群から引き離した。
 最初こそ恐怖したものの、たちまちに語尾を窄めて二人は傍にいる朔ノ夜を凝視する。

 巨大な金魚の姿は恐怖を煽るが、その目はこちらに向いていない。
 背を向けて扇のような尾鰭を盾のように逆立てている様は、まるで後ろにあるものを守っている姿のようだ。


「その子の傍にいれば命は保証できます。動かないで下さい」


 ちらりと振り返る狐面が静かに告げる。
 右頬から右目を通り額まで、鮮やかな朱色で揺らぐ炎のような、花のような模様が彩られている。
 その面をついと上げると、蛍は未だ足首を捕らえられている村田を視界に入れた。


「村田さん」

「! あ、ああ」


 自分の名を知っている。
 やはり彼女は彩千代蛍だ。
 鬼に捕えられている状態だというのに、何故か胸が熱くなる。

 無限列車の死闘は情報として聞いていた。
 それ以降、蛍とは一度も会っていなかったのだ。


「今、助けます。動かないでいて下さい」

「なんだコイツ、鬼狩りの仲間かよ」

「麻の葉文様(あさのはもんよう)の鬼といい、鬼狩りに属する鬼が多過ぎやしねェか」

「大人しく聞いてりゃ調子に乗って。鬼と言っても女一匹だろ」


 急な登場に不意打ちは喰らったものの、相手もまた鬼。
 再生した長い腕をゆらりと擡げると、ぴり、と殺気立った空気を放った。
 狐面を戻した蛍が、静かに三体の鬼を見やる

 麻の葉文様の鬼とは、禰豆子のことだろう。
 炭治郎もまた敵鬼に狙われていた。
 竈門兄妹は唯一、生身の鬼舞辻無惨と対峙した者達だ。
 二人の命は常に危険に晒されている。

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