第8章 むすんで ひらいて✔
ほんの少し体を傾けて、横に倒した頬を俺の肩に凭れて、腕の中で丸くなるようにして座っている。
抱擁と言うには少し違うものだったが、それでも変な汗が手に浮かぶようだった。
…何を固まっているんだ俺は。
自分から甘えろと言っておいて。
「…杏寿郎?」
腕を広げたまま微動だにしない俺に疑問を抱いたのか。顔を上げる彩千代少女に、慌てて広げたままだった腕を手繰り寄せた。
「なんでもないッ!!」
「うぷっ」
勢い余って強く抱きしめ過ぎた。
またも慌てて今度は緩めれば、気にした様子はなくこちらを……近いな!?
「さて! 次は甘露寺の継子時代の話でもするか!!」
「え? まだするの? 気にはなるけど…」
「甘露寺が初めて継子として屋敷に訪れた時のことだ!!」
余りの距離感の無さに、口が勝手に捲し立てる。
彩千代少女を見ないようにと檻の外に目を向けたまま、勢いで喋り続けた。
「甘露寺のその爆発的な膂力(りょりょく)の強さは前々から聞いていたので知っていた!」
「ぁの…杏寿郎、」
「故に最初は力比べでその力量を見ることにした!!」
「声の音量が凄い」
「相撲の取り合いのようなものだったが最初は負けそうになってな! あの時は驚いたものだ!!」
「聞いてる? ねぇ」
合間合間に彩千代少女の声が聞こえるが、何故か聞く耳を持てなかった。
今腕の中にある温もりに意識を向けてしまえば、この胸の騒ぎが変な熱を持ちそうな気がしたからだ。