第8章 むすんで ひらいて✔
姉の死は、彼女の鬼化と関与していたようだった。
冨岡からの情報では、鬼となり他者を手に掛けた彩千代少女の傍に姉の遺体もあったそうだ。
…そう言えば、初めて彩千代少女と言葉を交わした…いや言葉を綴りあった日に、人も鬼のように人を喰らうと言っていたな。
だから自分は鬼になったのだと。
「だから千寿郎くんの杏寿郎に憧れる気持ちが、少しわかる気がする」
「…よし!!」
「わっ吃驚した。何──」
「ならば俺に甘えるがいい、彩千代少女!!」
「……はい?」
思い立ったら即行動。
それが俺の良さだとお館様に褒められたことがある。
体を小さく丸めて、思い耽るように姉のことを口にする。
そんな彩千代少女を見ていると何故だかこみ上げた思い。
そのままに勢い良く両手を広げて宣言すれば、ぽかんと見てくる彩千代少女の目が丸くなる。
「…ふっ」
と、その顔が緩んだ。
「ふふ…っあははッいきなり何言うかと思えば…っ」
ツボにでも入ったのか、腹を抱えてけらけらと彩千代少女が笑う。
曖昧な先程の笑顔とは違う。
確かな彼女の感情に、求めていた応えとは違ったが心はぽかぽかと温かくなった。
うむ、いい笑顔だ!
「でも折角だし」
「む?」
「借りようかな。その胸」
余り見ない、彩千代少女の弾けるような笑顔が見られただけで十分満足だった。
だからまさか広げた腕の中に身を寄せられるなどとは思っておらず、予想外の出来事に固まってしまった。
「お邪魔します」
律儀な挨拶を向けて、小さな体が腕の中に入ってくる。
触れる柔らかな体。
近付く確かな息遣い。
ふわりと彩千代少女自身が持つ香りが鼻孔を掠めて、広げた腕を閉じることも尚広げることもできなくなった。
「やっぱり杏寿郎の腕の中は落ち着く…」
先程よりもぐっと近付いた声。
穏やかな彩千代少女のその声とは反対に、俺の胸の内はざわついていた。
全集中の時のように心臓がどくどくと脈打つ。