• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし



 相手は偶然、狩場に迷い込んだだけの鬼だと思っていた。
 自分と同じように餌を喰らう為に、少女達に同行していたものだと。


「貴女が連れてきた餌だから譲歩したけれど、この狩場はぼくの場所だ。全部をひとり占めっていうのは、良くないんじゃないかな」

「……」

「雨天なら昼間でも外に出られることを教えてくれたのは、感謝してるけど」

「……」

「ねぇ聞いてる?」


 頸を傾げて問いかける。少年のその言葉に、蛍はぴくりとも反応を示さない。
 ただ後方で少年の投げかけを聞いていたアオイは、だから昼間にも関わらず鬼に出くわしたのだと納得した。

 見たところ、恐らく相手は水を術として操る鬼なのだろう。
 雨が降り注ぐ世界では、支配者側の立場となる。
 それがこの林道に現れた他の鬼──蛍の痕跡を拾ったのか。


(でも蛍のことは知らない…私が着ている"これ"にも反応していない)


 義勇から借りた隊服には、背中に"滅"の文字が刻まれてある。
 そこにも反応を示さないとあれば、鬼殺隊を知らない鬼なのか。

 見た目は少年だが、どれ程の年月を生きているかはわからない。
 人の通りの少ない林道を狩場として、世間から外れた存在となっていたのかもしれない。

 全ては憶測だ。
 結局のところはわからない。
 それでも鬼殺隊を知らないことは、アオイにとって吉報だった。
 敵に無暗に情報を渡すことは死に繋がるからだ。


(あの鬼は、私達がひ弱な人間だと思ってる。冨岡様が異変に気付いてくれればきっと…!)


 全員の命は助かるはずだ。




「来ないよ」




 意表を突くような冷たさだった。


「鬼の彼女が何を考えているかわからないけれど、お前のことは手に取るようにわかる」


 黒く塗り潰したような感情の読み取れない目が、アオイを見据えていた。


「助けが来ると思っているんだろう? あの半柄の羽織を着たあの男のことでも考えているんだろう」

「な…」


 何故。
 アオイの驚く表情からありありとその感情を読み取り、少年は笑った。


「お前の体には、恐怖が染み付いているからね」

/ 3466ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp